11.「みぞれ」

「カキ氷に蜜をかけたものがみぞれだって知ってた?」

『知ってるよ』

「カキ氷って昔はみぞれしか無かったって知ってた?」

『知ってるよ』

「空から降ってくるみぞれも甘いって知ってた?」

『それは知らなかったな』

「冗談だよ」

『知ってるよ』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

12.「喉」

「今日、お金無いんだ」

『そうか』

「あー、喉渇いたなあ」

『そうか』

「カクテルとか飲みたいかも」

『そうか』

「何でもいいから飲みたいなあ」

『マスター、水一杯』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

13.「鏡」

「鏡って便利だよね」

『ああ』

「けど、鏡で自分の顔を見るたび辛くなるんだ」

『自分の顔を卑下するなよ』

「何て美しすぎるんだと」

『そっちかよ』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

14.「あなたのいなくなった日」

「最近、いつも考えるんだ」

『いつも変なこと考えてるだろ』

「人はいつしか居なくなってくものじゃない?」

『ああ』

「君が居なくなったら嫌だなって」

『そうか、でも俺は奢らないぞ』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

15.「意識という深い海」

『いつも思うんだが、お前って俺の話聞いてるのか?』

「聞いてるよ」

『でも、上の空じゃないか』

「聞いてるけど、意識という深い海の中で己という意思が沈んでいって――」

『早い話が眠いんだな』

「当たり」

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

16.「心音」

「お酒飲むと心臓の動きが速くなると思わない?」

『なるな』

「アルコールによって血の巡りがよくなり、心音が大きくなったりもするんだよ」

『それで酒の味に影響は出るのか?』

「出ないよ」

『なら別にどうでもいいな』

「そうだね」

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

17.「朝焼け」

「朝焼けって綺麗だね」

『夕焼けも綺麗だと思うな』

「朝焼けの方が綺麗だよ」

『夕焼けの方が綺麗だな』

「でも今は、胸焼け……」

『飲み過ぎだな』

 今日も酒場の夜か静かに明けていく。

18.「私の欠片」

『酒を飲むと時々思い出す』

「昔のこと?」

『全部は覚えていない、断片的な記憶なんだが』

「記憶の欠片だね」

『ひどく大事なことのような気がして仕方がない』

「どんなこと?」

『お前に酒代貸してなかったか?』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

19.「手負いの獣」

「額、切れて血が出てるよ」

『ちょっとあってな』

「転んだんだドジだね」

『わざとふくむような言い方したのにそれだけかよ』

「何かあったの?」

『いや、実際転んだだけ』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

20.「耳を欹てて」

『前から言ってるが、お前は人の話を聞かなさすぎるんだ』

「しーっ、静かに」

『……』

「……」

『どうした?』

「いや、黙ってほしかっただけ」

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

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