41.「しせん」
「最近、誰かの視線を感じるんだ」
『自意識過剰だな』
「ストーカーかもしれない」
『自意識過剰だな』
今日も酒場の夜は静かに明けていく。
42.「カルネアデスの板」
『嵐に遭って船が沈んだとしよう』
「うん」
『お前は運良く船の破片の板切れにつかまった』
「うん」
『助かったと思ったのも束の間、自分の一番大切な人がすぐ側で溺れている』
「うん」
『板を渡すとお前が溺れ死んでしまう、板を渡さないと大切な人が溺れ死んでしまう』
「うん」
『さあ、どうする?』
「え、一番大切な人は自分だよ?」
今日も酒場の夜は静かに明けていく。
43.「パンドラの箱」
「パンドラの箱の話って知ってる?」
『開けてはならない箱を開けたら、ありとあらゆる災厄が飛び出して、最後に箱の底に希望が残ったって話だろ?』
「うん、何か闇鍋で嫌いな食べ物ばかり当たって、最後の最後に好きな物が当たったって感じだよね」
『的確な比喩だな』
今日も酒場の夜は静かに明けていく。
44.「シンデレラの靴」
「シンデレラの話にガラスの靴って出て来るよね」
『ああ、綺麗な靴だよな』
「けど、すごく蒸れそうだよね」
『ああ、臭そうだな』
今日も酒場の夜は静かに明けていく。
45.「永遠の愛-eternal love-」
「君が好きだ」
『……』
「ずっと好きだ」
『……』
「これからもずっと好きだ」
『わかったわかった、一杯おごってやるよ』
「そういうとこが好きだよ」
『現金な奴だな』
今日も酒場の夜は静かに明けていく。
46.「何事も言葉で暴く必要はない」
「どうしたのさ?」
『……』
「そんなジロジロ見ないでよ」
『……』
「な、何?」
『……』
「焼き鳥こっそり食べたのが悪かったです、ごめんなさい」
『わかればいい』
今日も酒場の夜は静かに明けていく。
47.「青空教室」
『昔、青空教室ってあったけど、雨の日とか授業無いんだよな』
「あるんじゃないかな」
『教科書とか濡れないか?』
「濡れるけどあるんじゃないかな」
『風邪ひかないか?』
「ひくけどあるんじゃないかな」
『お前、俺の話聞いてないだろ』
「聞いてないけどあるんじゃないかな」
今日も酒場の夜は静かに明けていく。
48.「僕はこの目で嘘をつく」
『どうしたんだ?』
「……あとで飲もうとしてたカクテルが無い」
『飲んでから出てったんだろうな』
「何回もその手に引っかからないよ」
『お前、俺を疑ってるのか?』
「うん」
『お前、俺の目をよく見ろ、これが嘘をついてる目か?』
「目つきがいやらしい」
今日も酒場の夜は静かに明けていく。
49.「私をあげる」
『なあ。立て替えてた分の金、早く返せよ』
「最近、車のローンとかでお金無いんだ」
『じゃあ、どうすんだよ』
「うーん。この魅力的な身体で払う」
『じゃあ、稼いで来て払え』
「ひどいっ」
今日も酒場の夜は静かに明けていく。
50.「禁断の果実」
「ねえいう、コーラってジュース知ってるよね」
『ああ、当たり前だろ』
「あれってコーラの木の実からできてるんだって知ってた?」
『嘘だろ』
「本当だって。何で嘘だと決め付けるのさ」
『だってお前が言うことだから』
「今回は本当なのに……」
『今回“は”ってお前、毎回嘘だったのかよ』
「うん」
今日も酒場の夜は静かに明けていく。