81.「王様」

「ちっちゃい頃って何になりたかった?」

『王様』

「贅沢できるから?」

『うん』

「……今と大して変わらない子供だったんだね」

『お前は何になりたかったんだ?』

「女王様」

『……今と大して変わらない子供だったんだな』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

82.「生徒会室」

「昔、生徒会に入ってたんだ」

『何で生徒会にいたか何となく想像ついた』

「学校を裏で操ろうとかそんなんじゃないよ」

『じゃあ、何で生徒会にいたんだ?』

「生徒会室が物凄く豪華だったんだ」

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

83.「空白」

「ああ、僕の心の空白」

『ふうん』

「ああ、僕の心の空白!」

『……』

「埋めてくれないかなぁ」

『わかったわかった、酒が欲しいんだろ』

「いつもお酒お酒って言わないよ!」

『じゃあ、何だ?』

「お金ちょうだい」

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

84.「なかったことにして」

「あのさ、今からかなり大事な話するけど、しっかり聞いてね?」

『ああ、何だ?』

「とても辛い話かもしれない、けど現実から目を背けずに聞いて欲しい」

『ああ』

「この前の借金、無しに……」

『黙れ』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

85.「雪」

「今日は雪が降ってるね」

『そうだな』

「ロマンチックじゃない?」

『そうだな』

「さあ、飲もうか」

『雪見酒か、ロマンチックでも結局は酒なんだな』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

86.「殴り合いの喧嘩」

「そんなに腹が立つなら殴れば?」

『殴らない』

「何で?」

『女には手をあげない主義でな』

「面白くない、慰謝料請求しようと思ったのに」

『自分からけしかけといて最悪だな、お前』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

87.「親不孝」

「僕、親不孝者なんだ」

『どうしてそう思うんだ?』

「言えないよ」

『俺だって真面目な話くらいできるさ。言ってみろよ』

「ここ、ほら、中指のところにサカムケがね……」

『あ、そう』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

88.「長距離電話」

「あはは、長電話しちゃってごめんね。また今度遊ぼうね、じゃあね」

『電話か?』

「うん、海外の友達なんだ」

『へえ、結構、高いんじゃないか?』

「気にしない気にしない。これさっき拾ったやつだから」

『ほう、どこで?』

「このカウンタで」

『俺のだろ』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

89.「ココア」

「マスター、ココア一つ」

『今日はアルコールじゃないのか』

「気まぐれだよ」

『じゃあ俺も。マスター、ミルク一つ』

「へっへっへ、ミルクなんかよりもこの白濁とした――」

『そのネタは女のお前が使うものじゃないと思うんだが』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

90.「古い映画館」

「ちょっと映画でも行かない?」

『別にいいけど』

「君のおごりね」

『お前のおごりな』

「別にいいよ」

『お前が折れるなんて珍しい』

「旧友が経営してるから無料なんだ」

『そりゃあ道理で』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

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