91.「ベクトル」

『お前さ、いつも思うんだけど俺のこと嫌いだろ』

「嫌いじゃないよ」

『嘘だろ』

「別に好きでもないけど」

『そうか。俺もお前のこと嫌いじゃない』

「嘘でしょ」

『好きでもないけどな』

「……ぷ」

『……ぷ』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

92.「ヨーグルト」

「何かこう健康に良さそうなもの無い?」

『運動』

「あ、ヨーグルトとかいいな」

『運動は?』

「今日はヨーグルト買って帰ろう!」

『運動しろって』

「腸にも良さそうだしね」

『お前、動くのはとことん嫌なんだな』

「うん」

『どう』

「うわ、くそつまらない」

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

93.「美貌」

「綺麗な人ってうらやましいね」

『そうだな』

「こうさ、近くにいるだけで落ち着くと思わない?」

『そうだな』

「何で僕だって言ってくれないのさ……」

『その反応が面白いから』

「素直じゃないね」

『そうだな』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

94.「粉雪」

「あ、雪だ」

『綺麗だな』

「雪見酒だね」

『結局、それなんだな』

「僕の事、よく分かってるね」

『まあな』

「好きだから?」

『誰でも分かる』

「ちぇっ」

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

95.「賽は投げられた」

『結婚しないか?』

「うん、いいよ」

『随分、簡単に答えるな』

「まあほら、もうすぐ100だし?」

今日も酒場の夜は静かに明けていく。

96.「…」

「……」

『……』

「……」

『……』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

97.「うそ」

「好き」

『俺もだ』

「うそ」

『俺もだ』

「今言った事がうそ」

『俺もだ』

「あれ、混乱してきた」

『俺もだ』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

98.「肯定の言葉が欲しかっただけ」

「本当に途中からネタ切れしてた感じが否めないよね」

『うん』

「でも頑張ったと思わない?」

『別に』

「……あ、そう」

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

99.「お帰りなさい」

「お帰りなさい」

『ただいま』

「今日は何にする? お風呂? 料理? それとも……」

『マスター、いつものやつ』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

100.「また逢いましょう」

「お別れだね」

『お別れだな』

「寂しくないの?」

『別に』

「あ、そう」

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

終章.「100のお題」

 賑やかな酒場でも、対照的に静かな場所もある。

 彼らにしかわからない世界。彼らだけの世界。

 百の夜に、百の言葉を綴った。

 百の夜を、百の想いで語った。

 しかし、彼らだけの夜は未だ終らない。

 酒場“night a star”の夜。

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