08.ルーの思うこと
わだかまりが、胸に残った。
友達にさえ言えない悩みを抱えるあたしたち。カイルにはカイルの、クライスにはクライスの、そしてあたしにはあたしの秘密がある。それぞれの辛苦。それぞれの懊悩。それは唯一だ。分かち合えるものではなく、また代わって背負ってやることもできない。自分で支え、自分で運び、自分でくだかねばならない、自分だけの傷跡だ。
だからカイルは多くを語らなかったし、クライスは深くを問わなかった。それでは表面を取り繕って仲良くしているように見せているだけと、そういう人もいるかもしれない。でも、それは違う。友達という二文字を免罪符に、立ち入ってはならない人の核心に、土足で上がりこんでいいはずがない。
だけど、不安は拭えない。
それさえ偽善なのかもしれない。僧侶たるもの、他人の傷を理解し、赦し、癒してやらねばならない。なのにあたしは、一番親しいカイルやクライスにさえ、それができていない。
いくら魔法が達者でも、所詮あたしは神の子には遠く及ばない。どこまでいっても下等な人間程度の精神しか持ち合わせていないくせに、分不相応にも絶大な才能を与えられてしまった。それがそもそもの不幸なのだ。
お互いの悩みすべてを打ち明けて、それでも友達いられる強い絆。お互いの一番醜くて汚いところを晒しあって、それでも君が好きだよ笑える強さ。
そういうものに抱いた憧れを、どうしても捨てきれずにいる。
誰か知っているのなら教えて欲しい。
それは本当に、叶わぬ夢に過ぎないのだろうか。
*
時ならぬ冷たい風が、強く吹いた。
月光だけが照らす道を、ゆっくりと歩いた。
木々を渡る風が砂をさらっていく。影のような砂が、夜の闇をまだらに染める。
髪が流れる。才能の証。苦悩の源泉。
いまここに存在するという、償いがたい絶対の罪。
その苦悩を。
その罪科を。
いつか、かけがえのない友に告げることもできるだろうか。
道は細く、遠い。
その頼りない道程を、はかない月光だけが濡らしていた。
*
「お帰りなさい」
居間には母様がいた。父様の姿はない。今夜は月に祈っているのかもしれない。
ときどき思う。父様の祈りは、なんのためにあるのだろう。父様は、なにが欲しくて祈っているのだろう。
世界の平和か、人々の安息か。
もう何も失わないためか。
失った何かを取り戻すためか。
次に失うものを守るためか。
失った何かを、忘れるためか。
「お墓参りには行ったの?」
「ええ、行ってきたわ」
いくら祈ろうと神様は命を返してはくれない。時がさかさまには流れないように、死んだ人は甦らない。
家の中が息苦しくて、浴室に逃げ込んだ。
ワンピースを落として、銀盤に映った自分を見る。
小柄で、華奢で、ひどく白い。
だけどあたしは生きている。
いまもこうして生きている。
ミストーラという魂の牢獄を抜けて、信仰という屍の牢獄を抜けて、あたしの心臓は脈打っている。
ああ、それだけで。
こんなにも、醜い。