プロローグ
我輩は猫である。名前はまだない。
うそうそ。あるある。だって、飼い猫だし。いまどき、そのへんの野良猫だって、学校帰りの小学生とかに名前つけてもらってるって。
ただ、できれば名乗りたくないっつーか。なんかそんな感じ。
ご主人ってば名前つけるのめんどくさがってさ、俺の名前。何てつけたと思う?
……。
そのまんま、ネコですよ。ネコ。まんまネコ。ネコマンマ! ……ごめん、最後のは関係なかった。ちょっとエキサイトしすぎた。
いやでもさ、エキサイトするのも仕方ないって。何でやねん、ネコって。
そのへんの黒猫だって、クロとかもうちょっとましな名前つけられるっつーの。ネコって何だよ、ネコって。
だいたいさ、ご主人のヤツ、俺のこと馬鹿にしすぎ。人間様だか何だか知らないけどさ。
わかってんのかね。俺ら猫がどれだけ偉大なのか。
考えてくれよ、な? お前らさ、たかが人間だろ? ぷげら、人間。他にお仲間って言えば、サルとかチンパンジー? ぷげら、笑っちゃうね。
俺ら、猫だよ? ネコ科のトップに君臨してるの。この意味、わかる?
……え、わかんない?
ああもう! 馬鹿だな。このネコ様が説明してやる。
え? 紛らわしい名前すんなって? ネコなんて名前まぎらわしいって?
……ご主人に言ってください。あんまりいじめないでください。この名前、気にしてるんで。いやほんとマジで。いいや、まあ別に。
よし。気を取り直して、我々がどれだけすごいか説明してやる。
耳の穴かっぽじって、よーく聞け。この人間ども。
え、お前の耳がふさふさして可愛い?
そうだろう、そうだろう。ふひひ。おっと、そんなに褒めても何も出ないぞ。俺は買収には乗らない主義だからな。
まあ、どうしても俺を買収したかったら、マタタビの一年分でも持って来るんだな。
話がそれてしまった。猫のすごいところだったな。
その前に、まずは質問といこう。君はライオンを知ってるかね? うん?
おおっと、答えは言わなくていい。そりゃあ知ってるだろうとも。ライオンなんてこの情報社会の日本なら子猫だって知ってるさ。
そう、そこでそのライオンなんだが、彼らは正式には“ネコ科”に属する。聡明な人間諸君ならば意味がわかるね?
もっと言えば、ヒョウもチーターもトラも、みーんな、ネコ科だ。そこんとこわかってる?
要するに、俺らはライオンとかヒョウとかチーターとかトラなんかよりも、偉いの。そんでもって強いの。
あ、強いは言い過ぎた。ごめんね。ちょっと興奮してるだけだから許して。戦ったら絶対に負けるから。俺ら、非力だから。あいつら、バケモンだから。
間違っても戦わせようとか思うなよ。動物愛護団体に訴えるよ!
いやほんと、まじで。だって、あいつらの足はやいじゃん……。逃げれねえよ……。
え? いや、もちろん、猫が一番えらいよ。そのことには変わりないよ!
強さを論議したって仕方ないし、もうやめよ? なっ!
うむ。まだまだ語り足りないことも多々あるが、そろそろお別れの時間だ。だって、ほら、サザエさん始まるし。あれ見るために生きてるって言っても過言じゃないね。
サザエさん、面白いんだよねー。コタツで見るサザエさんがやっぱ一番だわ。
そんでもって、大好きな肉とかあるとなお良い。え? 猫は魚だろって? バカじゃねえの。人間はこれだから困る。猫は雑食なの。
アメリカ人だって肉食うじゃん。ばりばり食うじゃん。猫だってそりゃ食うよ。ばりばり食うよ。
猫が肉より魚が好きだって言うのは、漁業の盛んな日本に住む人の思い込み。もっと、科学的に証明してから物を言いたまえ。
もっとも、肉をくれたら何も言わんでもいい。科学も空腹の前には何の役にも立たない。そのことは、野良猫時代によーく学んだ。賢い私は肉が好きだ。
我輩は猫である。名前はネコだ。肉が好き。
……もっと、まともな自己紹介できるように一週間考えてみようと思う。