勇者の子孫、竜王の曾孫(※ドラゴンクエスト1、2)

「よくきた、アレフよ。わしが王の中の王、竜王だ」
 アレフは背に負ったロトの剣の柄に手をかけた。
「わしの味方になる証にロトの剣を渡せ。そうすれば――世界の半分をお前にやろう」
「断ると言ったら?」
 竜王は笑みを浮かべ、何も答えなかった。

 *

「アレフよ、わしを殺せ」
 息をするのももどかしげに、竜王は言った。頭に頂いた二対の角は片割れを失い、その身にまとっていた王の象徴たるマントは敗れ去って見る影もなかったが、魔の王たる風格は無くなってはいなかった。爛々と光るその双眸に、闘志は今なお燃えていた。しかし鋭い眼光をアレフに投げる以外に成す術はないように思えた。アレフの剣撃をあと一太刀その身に受ければ、竜王はその永き寿命を終えることだろう。
 しかし、アレフはそうしなかった。
「殺さない」
 戦いの余韻と共に右手に残るロトの力。ロトの剣はまだ抜き身のまま、アレフの手にあった。不死鳥を模した剣格が竜王の青き血にその身を濡らしていた。勇者と魔王、激しい闘いの末に勝利を収めたのは、アレフだった。
「情けか、勇者よ」
「……ぼくにはあなたが悪だとは思えない」
「わしはドムドーラを滅ぼした。アレフガルドに恐怖を蔓延させ、数多の命を奪った。それでも、お前はわしが悪ではないと言うか」
 アレフの表情が強張り、剣を握る手に力が入った。
 旅先で訪れた砂漠の町ドムドーラは、アレフの慣れ親しんだものではなかった。アレフの知っている道は、家は、オアシスのせせらぎは無かった。そこにあったのはただ砂塵の吹き荒れる荒廃した町並みだけだ。アレフに優しくしてくれた隣の家のおばさんも、よく遊んでくれた道具屋のおじさんも、それに父も母もいなかった。そうだ。みんな死んだのだ。アレフの旅立ちのために、彼らはその命を擲った。勇者ロトの子孫のために、彼らは喜んでその身を差し出した。
「わしは人々を殺したぞ」
 しかし、アレフは笑ってみせた。
「だけど、あなたは、ローラ姫を殺さなかった」
 殺す必要がなかったからだ、と竜王はそっぽを向いた。
「それなのに、人々を殺したのはなぜなんだ?」
「ならば問う。魔物を殺したのはなぜだ?」
 それは人間を襲ってきたから、と言おうとしてアレフは思いとどまった。人間が魔物を殺すのは、魔物が人間に害を為すからだ。だけど、その逆も然り。今まで考えたこともなかったが、それもあり得るのだとアレフは気づいた。
「始まりを貴様ら下等な生き物に説明したところで、わかるまい」竜王は語った。「しかし魔物が凶暴化したのは彼ら自身の責任ではない。そのことはわかってほしい」
 アレフガルドを覆った闇――闇の衣、と竜王は称した。かつてこの地を支配した悪の権化たる大魔王ゾーマの遺産たる闇の衣がアレフガルドを再び混迷の時代へと追い込んだのだと竜王は語った。その闇の衣を消し去るために必要なものが光の玉であり、人間の手に本来あるべきものではなく、神の手にあるべきものである。竜王は簡単に語ったが、人の身たるアレフには到底理解の及ばぬ境地の話だった。
「我が母君から勇者ロトに光の玉は受け渡され、それはラダトームの地にとどまった。わしは王の中の王、竜王。ロト亡き今、光の玉を正しく扱えるのはわしだけだ。ラダトームから光の玉を奪取し、全ては元通りになるはずだった――が、やめた。アレフガルドを元に戻すのは人間が滅びてからで良い」
 アレフは竜王の言わんとすることがわかった。
 人間はその存在を悪と決め付け、ただそこにいるだけで魔物を殺した。原因など微塵も考えずに。そんな人間を救う必要など何処にあると言うのか。
「わかったようだな。自分たちのことしか考えず、魔物の心など考えようともしない。あまつさえ同族で殺し合うことさえやってのける。わしは人間に嫌気がさした。貴様らには救う価値すらない」
 アレフの脳裏に旅の始まりの記憶がよぎった。育ての父母を殺され、町を焼かれ、頼るべき術も生きる気力も失った。けれどもアレフをロトの子孫であり、アレフガルドの光だと言って死んでいった養父母らの言葉のみを信じて、ラダトームを目指した。ラダトームに行けば、自分の進むべき道がわかると思ったから。しかしアレフがラダトームで見たものは、賞金目当ての自称勇者の群れと、彼らが決して生きて帰って来れないだろうとわかっているのにそれを小額の資金で送り出すラルス十六世の姿だった。
 それでもアレフは自身がロトの子孫であると名乗り出た。ドムドーラの地を襲った悲劇を訴えた。それがドムドーラの人々の、養父母の願いだったから。自分がロトの子孫かどうかなんて、どうでもよかった。ただ、ドムドーラの敵を討って欲しかった。
 しかしラルス王がくれたものは、一二○ゴールドとたいまつ。そして、取ってつけた定型文のような冷たい言葉だけだった。ドムドーラのことについては一切答えてはくれなかった。故郷を失った、愛する家族を失ったアレフに対して、同じ人間に対してなんと酷い仕打ちか。アレフは絶望した。王に貰ったたいまつを使おうとしたとき、火種は涙で湿ってしまってうまく火がつかなかった。
「……人間は冷たい。そして、あまりにも汚い」
 アレフは呟いた。何がロトの子孫か、何が勇者か。人々がアレフを勇者だと認めたのは、ローラ姫を城に連れ戻ったときだけだ。成果をあげて初めてラルス王は、人々はアレフを勇者だと認め、ドムドーラの地について心から同情してみせた。
「ならば、なぜ苦しみ、闘う?」
「さあね。ぼくがロトの子孫だからかな」
 アレフはその言葉を噛み締めるように言った。ロト。猛き者。正義の象徴。
「ぼくは、ぼくが思うような生き方なんてできやしなかった。本当はドムドーラのみんなが死んだときに一緒に死にたかった。だけど、生まれたときからロトで、村が滅びるそのときもロトだから生き延びなきゃいけなくて、ロトだから世界を救う旅に出ないといけなくて。ロトだから……あなたを殺さなくちゃいけない」
 竜王は満足げに微笑み、言った。
「わしが、悪だ。わしこそが、世界の均衡を崩した悪だ。それでいい。さあ、お前はお前の役割を果たせ」
 アレフは眼を伏せると、ロトの剣を高く掲げた。鞘走りの音が短く、鋭く聞こえるのが、わかった。

 *

「世界に光が戻ったのは、お前のお蔭じゃな? アレフよ」
 ラルス十六世は気難しいその顔を崩すことなく言った。
 ラダトーム城、王の間には窓から眩いばかりの光が差し込んでいた。何十年ぶりの光だろう。
「アレフ様なら、必ずや竜王を倒してくれると信じておりました!」
 弾むような声で喜んだのは、ラルス王の愛娘のローラ姫であった。ラルス王は妻を早くに亡くしており、正式な世継ぎは後にも先にもこのローラ姫ただ一人だけであった。その姫さえも竜王の毒牙にかかったものだと思われていたが、竜王によって幽閉されていたのをアレフが救い出したのだ。その結果、アレフは勇者として認められることとなった。
「竜王は倒しました」
 アレフはローラ姫に微笑んでみせた。ラルス王は仰々しく頷くと、さすがは勇者ロトの子孫よ、と口にした。
 ロト。勇者。なんと歯がゆい言葉であることか。旅立ちの日にはその名を呼んで貰えずに歯がゆい想いをした。求めてやまなかったその称号は、もらった今もなお歯がゆいものであった。
 ローラ姫も嬉しそうに喜び、アレフに祝福の言葉をかけようとした。しかしラルス王がそれを遮った。
「して、光の玉はどこじゃ?」
 アレフはラルス王の顔を見つめた。そこには皺の刻まれた厳格な老人の表情が崩れることなくあった。
「竜王の城にあります」
「なんと、あの魔の城に? いやいや、竜王亡き今は邪悪な力も滅びていることか」
「竜王を殺してはいません」
 その言葉を聞いて、ラルス王は初めて表情を変えた。ありありと憤怒の表情が浮かび上がる。王は「なぜ、殺さないのか」と抑揚のない声で問いかけると、アレフは答えた。
「ぼくはロトの子孫である前に、アレフという一人の人間だから」

 *

 アレフは竜王に止めを刺さなかった。いや、刺せなかった。
「お前はお前の役割を果たせ」
 竜王が嘲笑したそのときに、アレフは己の役目を悟った。アレフはロトの剣を大きく振りかざすと、地面に突き刺した。
「これをやる、竜王。誓いの証だ」
「ロトの剣、だと。かような忌々しい剣などいらぬわ」
「悪しきを絶ち、正義のために使う剣だ」
 竜王は値踏みするような視線を投げつけた。アレフはその視線を受け止め、背負った鞘を床に投げつける。
「だけど、悪はもう……いない」
 魔物を狂わせた物が何かわかり、その解決策もわかった。魔物はもう邪悪な存在ではなく、今まで身近にいた普通の生き物に変わる。そう、光の玉を使えば。
「悪は魔物にも、人間にも潜んでいる。今までぼくは人間の中で生きてきて、悪い人もたくさん見てきた。だけど、誰一人にだってロトの剣を、ロトの力を向けたことなんてない。今この世界にある悪程度なら、ぼくひとりで何とかしてみせる。誓おう。勇者アレフは、生きとし生ける者すべてを公平に扱うと。それがぼくの役割だ」
 アレフは竜王に右手を掲げ、その手に癒しの精霊の力を集中させた。
「精霊ルビスよ、傷を癒す力を貸したまえ――ベホイミ」
「……なっ?」
 竜王の全身を優しげな光が包み込み、その傷は跡形もなく消え去った。
「さあ、光の玉を使ってくれ」
 竜王はアレフを驚きの表情で見つめた。その表情がみるみるうちに歪み、大声をあげて笑った。
「これだから愚かなやつよ、人間とは。ロトとは!」
 高らかに笑いながら竜王は足元に刺さった剣を抜いた。
「わしが光の玉を使わなかったら? わしがアレフガルドに光をもたらさなかったら?」
 不死鳥の装飾の施されたその剣を手に、竜王は言った。
「アレフガルドに光が戻らなかったら?」アレフは視線を宙に向けて、首をぽりぽりと掻いた。「そりゃあ、困るな」
 竜王は口元を緩めると、足元の鞘を拾って刃を納めた。
「愚か者め」
 そう吐き捨てると竜王は、玉座の後ろに置かれた小箱を開けた。瞬間、中から眩いばかりの光が溢れ出す。あまりの明るさにアレフは目を瞑った。
「竜の神よ、このアレフガルドの地を覆う闇の衣を剥ぎたまえ! アレフガルドの地に、光あれっ!」
 竜王が光の玉を高らかに掲げると同時に、空気が変わったのがアレフにはわかった。身体に纏わりつくような、肌を突き刺すような嫌な何かが消え去ったのだ。
「ここからではわかるまいが、地上に出てみればはっきりとわかるだろう。世界はもとに戻っておる。もっとも、光の玉はラダトームに戻さんがな。これは先代の竜の神の使いたる母からわしに受け継がれるべき神器である故」
「竜王、ありがとう」
「礼はいらん。わしはわしの役目を果たしたまで」
 アレフはその言葉を聞いて、踵を返した。返して、やっぱり振り返った。
「竜王、あなたのことは世界には内緒にするよう、言ってみる。だから、あなたもあなたのことを内緒にしてほしい」
「まったくもって意味がわからん」
「誰かが来たら、竜王だってことはばらすなってこと。とは言ってもあなたは目立つね……、適当に曾孫とか言って誤魔化せばいいと思うよ」
 竜王は、愚かなやつめ、と苦笑した。そして、背を向けて去ろうとするアレフに声をかけた。
「アレフガルドを覆っていた闇の衣が無くなった今、海も従来の穏やかさを取り戻している。この城より東へと航路を取れ。その先には更なる世界がお前を待っているだろう」
 アレフは振り向いた。
「勇者アレフよ。ロトの剣と引き換えに、世界の半分をお前にやったぞ」
 勇者アレフは微笑み、竜王の曾孫に手を振った。

 *

「……だから、ぼくは竜王を殺していません」
 アレフは竜王のことを語るつもりはなかった。しかし、恋慕を抱いたローラ姫の前で嘘をつきたくはなかった。嘘をついてしまうことは悪への第一歩であるような気がしたから。
「ですが、竜王は死にました」
「しかし、お前は殺していないと……」
「竜王は約束しました。竜王としての生は終え、竜王の曾孫として生きる。あの島からこの地を見守ると、人間には決して手は出さぬと。もう、竜王はあそこから出てきません」
 ラルス王の厳格な表情が、憤怒を通り越し、赤く赤く染まっていた。その血管が脈動しているのが、傍から見ても良く分かった。
「ですが、あの地に攻め込むなら、竜王の曾孫は全力を尽くしてその身を守ろうとするでしょう。生物としては当然の自己防衛です」
「ならん、それはならんぞ!」
 アレフはラルス王を宥めるように言った。
「ロトの子孫はもう協力しませんよ。たくさんの自称勇者ならば、協力してくれるかもしれませんが」
「つ、追放じゃ! 出て行け、アレフガルドから出て行け!」
 ラルス王は威厳を保つために、虚勢を張った。虚勢であることはアレフにはすぐにわかった。ラルス王にできることは、せいぜい、追放命令を下すことくらいなのだ。極刑になどできようはずがない。ローラ姫帰還の際にラルス王は、アレフこそが真のロトの子孫だというお触れを出した。先ほども竜王を討伐したとして盛大に迎え入れた。そんな国民の英雄を理由もなく処刑したとなれば、王の体裁は間違いなく悪いものとなるだろう。それに、竜王に適わなかったラダトーム国が軍勢をあげたところで竜王を倒したロトの末裔に適うなど考えるはずもなかった。
「ええ、喜んで出て行きましょう。ただ、船を貸して頂きたい」
 ローラ姫ともう会えなくなるという想いが胸をよぎったが、アレフはその気持ちを無理に奥へと追いやった。
「うぬ、いいじゃろう。海の彼方へ消えてしまうが良い」
 ラルス王は追放命令を下したことで幾分、落ち着きを取り戻してきたようだった。しかし、その平静はローラ姫によって再び破られた。
「待ってくださいませ! アレフ様にローラもお供しとうございます」
「な、何を言うか、ローラよ!」
 焦ったのはラルス王だ。ローラが城からいなくなれば跡取りがいなくなる。下手をすれば国家の存続さえも危ぶまれる。ラダトームにとって、ラルス王にとってローラ姫は何としても繋ぎ止めなければならなかった。
 しかしラルス王が何を言っても、どう諭そうともローラは頑なに首を縦に振ろうとしなかった。
「なあ、ローラ……」
「アレフ様」
 ローラ姫は実の父であるラルスの言葉をさえも無視し、アレフに語りかけた。
「このローラも連れて行って下さいますわね?」
 ラルス王は父親としてローラ姫に父としてどれほどのこともしていなかったのだろう。アレフはローラの様子を見て、それを察した。アレフはちらっとラルス王を一瞥したが、静かに頷いた。
「君がそれを望むなら」
「うれしゅうございます、アレフ様」
 ローラ姫は、そう言うと頬を赤らめた。
 ラルス王は眉間に皺を寄せて考え込んでいた。打つ手がないことを悟ったようだった。その脳裏にどれだけの打算が浮かんでいるのか、アレフには想像もつかなかったが、あまり関心も持てなかった。
 反対したとしても、この二人は駆け落ち同然に旅立つだろう。だからと言ってそれを阻止しようとも、アレフの力は強大である。アレフは竜王を倒したが、あえて命を取らなかった。アレフを殺そうものならば、竜王すらも彼の地から出て来るかもしれない。何よりロトの子孫を殺すことは、この地の創造主である精霊ルビスをも敵に回すと言うこと……ラルス王は一人でぶつぶつと呟いていたが、ようやっと思考をまとめたようだった。早くしないと二人は旅立つ。アレフは殺せない。ローラの気持ちも変わらない。
「やはり、追放は無しじゃ。ラダトームを継いではくれぬか?」
 そこには威厳も何もなく、懇願の想いだけが見てとれた。しかし、アレフは首を振った。
「ぼくの治める国があるなら、それは自分自身で探したいのです」
 ラルス王はますます悩んだ。そして出した結論は一つ。駆け落ちは防ぎ、国家の体裁を尊重すること。即ち、全力を挙げて、勇者の旅立ちに協力する。うまくいけば、アレフが新天地で国を建築した際には、外交関係も持てるかもしれない。
「よ、よかろう。アレフよ! ローラと二人で力をあわせ、新しい旅に出るがよい! そのための協力も惜しむまい!」
 アレフとローラは軽く礼をすると、広間を去った。
 後に二人はラルス王の協力もあり、多くの人間と共に東へと航路を取った。ラダトーム海峡を抜け、かつてローラ姫の幽閉されていた沼地の洞窟を横目に遥か東の未開の地へと向かった。長い航海の果てに、湖に囲まれた洞窟を見つけた。アレフはこの地を拠点とすることを決め、簡素なローレシア砦を建築した。一行は着々と東へと進軍し、第二の拠点サマルトリア都を築く。サマルトリアの統治が落ち着いた頃、ローレシア砦をサマルトリア都よりも東へと移転し、更なる拠点とした。やがてアレフ達はその大陸をも離れて更なる大地へと向かい、古よりその地に根ざしていた国家と交流を結び、合併した。その地をムーンブルクとする。
 アレフガルドを去った二人によって開かれた地は、やがて国家となる。ローレシア。サマルトリア。ムーンブルク。三つの国は栄華を極め、ロトの子孫によって正しく統治された。しかしローラ姫の去ったラダトームには跡取りがおらず、ラルス十六世の世継ぎはその親類から選出され、もはや正当なラダトームの血筋は残っていない。ラルス十六世の死後、その統治は乱れ、国は荒れたと言う。

 *

「ロトの剣が、何で竜王の城にあるんだろ?」
 魔法使いの証であるステッキを所在無さげに弄りながら、ムーンブルクの麗しき王女ルーナは言った。亜麻色の美しい髪はピンク色のフードに半ば覆われていたが、先ほど初めて訪れたラダトームの人々は揃ってルーナの髪にローラ姫の面影を見出していた。
 これほどロト伝説のしっかりと根ざしている地も珍しい。しかし、ここがローラ姫の故郷であり、勇者アレフの旅立ちの地であることを考えれば何の不思議もないのかもしれない。
「アレフが竜王にあげちゃったのかもしれない」
 身軽そうな青い服に身を包んだ王子が言った。ローレシアにおいて青とは、ロトのまとった鎧のブルーメタルにちなんで聖なる色彩とされている。
「ばかね、アレンったら。そんなはずないでしょ。竜王は敵なのよ」
 ルーナは鼻で笑った。
「決めつけるなよ。光の玉の所在は知れず、ロトの剣も何処にも伝わっていない。ロト伝説ではロト装備をまとったアレフが新天地を目指して旅立ったって伝わってっけど……それすら怪しいって話だぜ。ロト伝説は正史とされちゃあいるが、その真偽は定かじゃない」
 ラルス十六世の手によってロト伝説に加えられた新たな章、アレフの章に至ってはことさら疑わしかった。いくつかの矛盾点がサマルトリアの学者によってあげられている。
「サトリったら、いつもあたしに絡むのね。たまには、あたしの言うことも認めてくれてもいいんじゃない?」
「オレが言ってること、ちゃんと理にかなってんだけどな」
 サマルトリアの若き王子サトリは手にしたロトの剣を見つめて、不満そうに呟いた。
「ほらよ、アレン。重くてオレには扱えねえや」
「危ないじゃないか!」
 サトリがそうやって放り投げた剣を慌ててアレンが受け取った。それを見てルーナがくすくすと笑った。
「まだ下の階があるみたいだし、もうちょっと散策してみましょう」
 ルーナが指さした階段を下った先には何者かの気配があった。長い回廊を抜けた先に、伝承に伝わるそれがいた。
 アレンは背負ったロトの剣に手をかけ、いつでも抜刀できるよう呼吸を整えた。かつてここでは大魔王ゾーマがロトに、竜王がロトの子孫アレフに討伐された。剣にかけた手にも自然と力が入る。サトリは呪文でも剣でも臨機応変に使い分けられるように敵の動きに意識を集中させる。相手の出方を見て、自分の打つ手を決めるのだ。ルーナは手にしたステッキを握り締め、呪文の詠唱をいつでも始められるよう頭にイメージを思い浮かべ、リーダーであるアレンの合図を待った。
 ローレシア、サマルトリア、ムーンブルク。ロトの血を引きし子孫たちを一瞥すると、それはふっと笑みをこぼして言った。
「よくきた、アレンよ。わしが王の中の王、竜王の……曾孫じゃ」
 竜王の曾孫を見て、勇者の子孫たちはどうしたものかと顔を見合わせた。

The End.



 原稿用紙二十五枚以内という縛りつき。テーマは無し。
 文字数は八二○○字程度。1の勇者をアレフ。2の三人をそれぞれ、アレン、サトリ、ルーナとしています。某作品が大好きですので、それに準拠させました。
 ドラクエ1のエンディングは物語調に進む。「あなたはいいました」なんてまさにそのもの。あれは主人公の視点ではなく、何か書物を紐解いている感じがしたものです。だから、エンディングのあれは歴史の捏造なんじゃないかなんて解釈をしてみた作品です。

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