13.勇者の血脈

 かつて、ピサロとロザリーという仲の良い夫婦が暮らしていた。
 魔界の住人である妖魔の王子でありながら、心優しきピサロ。そして、世界のどんなエルフよりも人間を愛したロザリー。彼らの血筋が脈々と続き、そのため今のエルヘブンの民には人類とは違った強力な魔力が備わったと伝わっている。
 そして、エルヘブンの一族の中でも取り分け魔力の素質の高いものが歴代エルヘブンの長となる規則があった。しかし、次期族長と注目されていたマーサは、パパスという外の世界の国の者に連れられてしまう。マーサはそれっきり、エルヘブンに戻らなかった。

「パパスさま」
 ふとっちょの召使が声をかける。
「なんだ、サンチョ」
「いくら落ち着かなくても、国王たるもの、もっとどっしりと構えてくださいませ」
 パパスは、ううむ、と難しい表情を作る。
「あなたさまはあまり存じないかもしれませぬが、元を正せば、あなたさまの血筋はバトランドの最後の国王にして、偉大なる戦士ライアンのものなのですよ。もっと落ち着いてもらわないと困ります」
「またそれか。それで納得しなければ、さらに神話の時代の“ロト”とやらを持ち出すのであろう? そなたはまったく、おとぎ話が好きなやつだ。まるで見てきたかのように語りよる」
 サンチョは少し複雑そうな顔を見せた。
「まあよい。少し気が紛れた。今度そのおとぎ話を息子にも聞かせてやってくれ。男児たる者、やはり心躍る冒険譚が必要だ。そして、マーサのような良い妻をもらうことが本懐よ」
「まったく、旦那様と来たら……」
 気が紛れたと言いながら、なおもうろうろと歩き出すパパスの様子を見て、サンチョはふっと微笑んだ。
「聖なる英雄ロトの血が、魔界の勇者の血と交わることがあるなんて……長生きはしてみるものですね」
 と、サンチョは見てきたかのようにこぼした。
 もっと長生きすれば、そのうちに天空の勇者の血もこの偉大な一族に交わるのではないだろうかと考え、さすがにそれは出来すぎだと都合の良い考えを打ち消した。
「ちょっと見てきますね」
 サンチョは女中と交代して、様子を見に二階へと上がって行った。
「うーむ。まだなのか……? 遅いぞ……」
 女中など眼中もくれず、パパスは相変わらず緊張した面持ちで右往左往していた。
 やがて、二階からサンチョが駆け下りてくる。
「お生まれになりました!」
「サンチョ! マーサは無事だったか! ……して、赤子は!?」
 サンチョは笑みを返した。
「男の子です!」
 サンチョはまだ、その赤子をしっかりとは見ていないが、産婆からそう聞かされていた。
 返事もせず、パパスは疾風のごとく駆け出す。サンチョはその背を見送った。自分はあくまでも召使であり、血の繋がりはないために感動の場に立ち会えない。本当は誰よりもいちばん、あの人の血脈が繋がる瞬間を喜んでいるのに。しかし、これでいいのだとサンチョは思う。
「ライアンさま。あなたの残した勇敢な血筋は、今も伝わっていますよ」
 かつて、ホイミンと呼ばれた男はそう呟いた。

 *

「マーサ!」
 駆け寄ったパパスの瞳には、可愛らしい我が子が真っ先に映った。続いて、妻のマーサの顔。マーサは産後であるためまだ少し息を切らしており、青白い表情をしていたが、身体に問題はなさそうだった。
 何と名づけようかと思案し、パパスは脳裏に浮かんだ名前を口にした。
「……トンヌラと言うのはどうだ? 勇ましいと思わないか?」
 マーサは穏やかな笑みを浮かべて、頷いた。
「そうね。かっこいい名前だわ……。けれど、初めから考えていたの」
 そして、マーサの唇が弧を描く。
「この子の名前は……」

  ――To“Dragon Quest V”...

後書き

 ドラゴンクエスト4から5にまたがる物語。終了です。
 中書きと称して合間合間に注釈を加えたので、特に補足することももうありません……と言いたいところですが、まだまだ語りつくせません。元来、小説とはそれ一冊で読めないといけないので細くは邪道なのですけども、今回の作品は単なる、考察(妄想)を書き連ねただけなのでこの範囲ではないと見苦しく言い訳しておきます。
 今回、この作品を書こうとしたきっかけは、リメイク版5でテルパドールに訪れた際の息子のセリフです。
「天空の血だけじゃ勇者は生まれないんだよ。もうひとつ、……の血が入らないと。あれっ? ボクなんでそんなこと知ってるんだろう」
 単純に考えれば、エルヘブンの血ということになるでしょうけども、そうなると、4の天空の勇者って何なのかって話になります。そこにエルヘブンの血は入っていませんでした。
 4の勇者はおそらく、6主人公の子孫である男性と天空人の女性の間に生まれた子供かと思います。6においては勇者は苦行さえ積めば誰もがなれるものでした。しかしながら、6主人公だけは違って、勇者になれる条件が比較的緩いのです。また、6主人公は精霊ルビスと称するものの導きによって旅立つのですが、魔王ムドーの城に向かう前にもルビスが助言をくれます。
 個人的にはこのルビスはアレフガルドから地上世界へやってきたものではないかと思ったりもするわけです。(2の後の世界であるキャラバンハートではルビスはどこか異世界へ旅立ってしまっていていないため)これも語りだすと止まらないので詳しくは別の機会に持ち越しますが、たぶん、ルビスはロトに恋し、その子孫をも見守っているのだと思います。6主人公がそのロトの血(もしくは生まれ変わり?)を持っているのであれば、なんとなく話もつながる。あ、そういえば、髪の逆立ち具合も3勇者に通じるものがある! とまあ、こうしてまた、妄想はとどまることを知らないわけです。
 つまり、総括すると、天空の勇者に必要なもう一つの血というのはロトの血なのではないかと。ロトもただの人間だろうという意見もありますが、やはり、私はロトはドラクエにとって特別なものなんだと思うのです。根拠はないけど。
 まあ、無理矢理にでもそう考えていれば浪漫が拡がるじゃないですか。そうとなると、拙作の脳内設定だと、パパスがライアンの子孫であり、ライアンがロトの子孫であるなら、5主人公もロトの子孫です。いたストで竜王にロトの臭いがすると言われたり、ビアンカがローレシア王子を見て、5主人公と似ているというのも頷けます。
 5主人公のロトの血、ビアンカ(フローラやデボラ)の天空の血……そして今回はさらにイレギュラーな、天空の勇者と対をなす魔界の勇者ピサロの血が混ざったので、5勇者(息子)はかなりの特別な存在になってしまいました。天空の兜が縮んだりするのはそのためです。たぶん、他の作品では縮んでなかったように思います。
 以前も言ったように、世界を地上(ミッドガルド)と地下(アレフガルド)しかないと考えれば、地上の流れは「3→9→7→6→4→5」となり、地下の流れは「3→1→2→キャラバンハート→8」だと私は考えています。すなわち、5の物語は4と同時間軸の8よりも後になり、したがって、ドラクエシリーズでもっとも新しい歴史となります。
 特別な血筋、運命のもと生まれてきた5の勇者が最後に来ていると考えると、すべてが繋がるのではないかと感じました。どう考えても、私の脳内設定ですけども。ドラクエシリーズは大好きなので、まだまだ暖めているネタはあります。オルテガ誕生の話とか、エスタークとダークドレアムの話とか(テリー=エスターク説は個人的には否定したい)、新たに出てきた9の設定とか、語りたい話も色々ありますが、今日のところはこれにてフィナーレということで失礼します。
 ここまで妄想にお付き合いくださった方がいらっしゃいましたら、本当に心の底からお礼申し上げます。なお、やっぱりドラクエの良いところは想像の余地を残してくれているところだと思いますので、各々の数の考察があると思います。プレイヤーの数だけ答えがあり、そのどれもが正しいのだと思います。



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