厨二のもも太郎

 某所で、レオさんと二人で書いた、リレー小説です。
 コンセプトは、もも太郎を「かっこよく」ということで、ものすごく変なベクトルに向かいました。
 注意、厨二病です。

 * * * * * *

 ――そう、これはテニスの王子様がまだテニスをやっているくらい昔の話である。
 月と太陽が舞い踊るこの地に、暗黒剣を操るおじいさんと水の精霊ウンディーヌの加護を得たおばあさんが住んでいました。
 おじいさんは伸びきったこの世界に終焉をもたらすべく山へ芝刈りに、おばあさんは汚れきったこの世界から自分という名の生物を守る衣服を浄化せんがため川へ洗濯にいきました。
 漆黒の悪魔が闇に溶ける世に水の抱擁によって衣服の汚れを落としている時に……何ということでしょう。このつまらない世界から流れてくる川から全ての生の者をあざ笑うかのように、山より小さいがちっぽけな人間よりも大きな桃が、川と言う大きなゆりかごに揺られながら“ドンブラコドンブラコ”と全てを諦めたケルベロスのように流れてきました。

おばあさん「おじいさん……またの名をコードネームヘルハウンド。今日この日は私の心のパンドラの箱に一生刻まれるでしょう――そう、それは時間泥棒すら超越する。甘美な桃を私は手に入れたのです」

おじいさん「これは、まさか覚醒されし『ヘブンス☆ピーチ』本物なのか……?」

 おじいさんも大喜びです。

 ――ぱかっ☆
 桃色ブラックホールの中から、見れば目が潰れ、声を聞けば進んで命を投げ出したくなるような神の子が生誕しました。

おじいさん「これは……! アルファでありオメガだからもも太郎と名付けよう」

 後の世に英雄として全世界に名を馳せるこの少年、もも太郎は大切に育てられました。
 そう、全てはこのときに始まっていた。おじいさんとおばあさんが、食事という生きるために周りの全てを犠牲にしなければならない、人間に課せられた行動を実行しようとしたその時すでに……物語の歯車は回り始めていたのである――。

 * * * * * *

 やがて、時は流れる。
 大きくなったもも太郎は鬼退治に出掛けます。

もも太郎「時に忘れ去られた者は、静かに滅びを受け入れろ。この世において、全てはカリスマの客……さあ、この世のすべての悪に目覚めのラッパを鳴らしてやろう」

おばあさん「待て、もも太郎……いや。デビルよりもゴッドよりも尊い私のエンジェル。魔女狩りを生きのびた私の最後の大魔術である、これを装備して行きなさい」

 おばあさんがとっておきのキビダンゴを3つ作ってくれました。そうして、もも太郎は旅立つ。

 * * * * * *

 もも太郎が歩いていると犬に会いました。

犬「獅子には肉を犬には骨を貴様には無垢なる魂を。今宵地獄の番犬たる私は……血に飢えている。脆弱なる人間よ、どこへ行く!!」

もも太郎「知れたこと……前に立ち塞がった安い命よ。剣ソードブレイドで鬼を殺す、それが正義だ……暴走列車は制御不能、無理矢理でも各駅停車にしてみるか?」

犬「正義……フンッ! 暴力を振るうための人間としては、格好の隠れ蓑だな。この世にはあってはならない罪……それこそお前の存在だ。腰に付けている物には何が入っているのだ?」

もも太郎「女が悪を吸ってバラになるように、俺の正義は悪を吸って輝きを放つ……これはキビダンゴだよ。1つあげるから一緒に行こう」

犬「くははは! 狂喜の沙汰事だ! 面白い、キビダンゴをくれるのなら、そのゲームに乗ってやる」

 犬が仲間になりました。

 * * * * * *

 国家権力に平伏した愚かな家畜――通称、犬を従えて、もも太郎が歩いていると、今度は猿に出会いました。

猿「我が爪は鉄鋼さえも裂き、我が遠吠えは空間を切り裂く。そして我が尻は、愚かな人間どもの血のごとく紅い。そこの人間の男と地獄の番犬よ、どこへ行き何を遂げようとしている! そして生き急ぐのは何故か!!」

もも太郎「生きることに理由がいるか?」

猿「ならば答えよ。腰に下げた、そのかぐわかしい禁断の実とも言えるものは何か。偉大なる航路“グランドライン”ではそれを“悪魔の実”と呼ぶと聞く」

もも太郎「浅墓な。いかにも猿知恵と言ったところか。これは“悪魔の実”ではない」

 もも太郎は一度言葉を切り、そして続ける。

もも太郎「……これは、最後の希望“キビダンゴ”だ」

 猿は驚愕した。

猿「キビダンゴだと……そのような災厄がまさかまだこの世界に存在していようとは! それ一つを欲しがって、南の国では血で血を争う戦争がおきたと聞く。かような核兵器“エターナルフォース”を持ち、一体何を成し遂げようとしているのだ?」

もも太郎「この世の終わりを見に行く。そして、始めるのさ。全てをな」

猿「くっ、夢物語を……。ええい、貴様ら脆弱なる存在の旅の理由など、最早どうでもよい。それをくれ一刻も早く! まるで人間の血肉を貪るように食そうぞ!」

 猿が仲間になりました。

 * * * * * *

 さらに歩いていると、雉が飛んできました。

雉「大宇宙の魂を奮い立たせよ、なんびとたりとも我が怒りから逃れることはできないッ! 我はメシアなのだハッハッハッハッ! もも太郎さんもも太郎さん、どちらに向かうのですか?」

もも太郎「命が惜しければ俺の前から消えろ、覇王神剣ヴァリアスブレードの化身たる雉よ……死ぬ準備が出来た者こそ、俺と相対する資格がある者だ。鬼が島に鬼退治にいくのだよ雉よ」

雉「我が命尽きても我が志は死なん、刹那の悪魔に囚われようとも、この世に覚めない夢など無し……あったとしても、我がその幻想をぶち壊す」

もも太郎「キビダンゴだよ、1つあげるから一緒に行こう」

 犬、猿、雉が仲間になりました。
 そして舞台は最後の砦へと移り変わってのいくのであった――。

 * * * * * *

 古の伝承にこうある。

『鬼の財宝? ほしけりゃくれてやる! 探せ! この世のすべてをそこに置いてきた』

 村で処刑された、髯の鬼が今際の際に遺した言葉である。鬼の言い残した“そこ”とはつまり、“鬼が島”のことを指す。
 もも太郎は、犬と猿と雉――つまり、黒い三連星を従え、偉大なる航路“グランドライン”を渡っていた。目指すは、悪の根城。この世の果て。神々の黄昏。そう、鬼が島である――。

 犬――。
「ふん。貴様の正義……暴力を振るうための人間としては、格好の隠れ蓑。この世にはあってはならない罪、つまりお前の存在の行く末を見届けんが為、我が地獄の番犬の力を貴様に貸してやろう。“今日のわんこ”に出るのは、この俺だ」

 猿――。
「貴様の夢物語を、白日の下に晒してみせよ。夢が夢で無くなる時、それは貴様が夢を掴むその瞬間だ。そう、我が力を貸してやろう。我が爪は鉄鋼さえも裂き、我が遠吠えは空間を切り裂く。そして我が尻は、とにかく赤い」

 雉――。
「笑止! 刹那の悪魔に囚われようとも、この世に覚めない夢など無し! よしんば、在ろうとも、我らがその幻想をぶち壊す……そうであろう、我らが主?」

 そして、もも太郎。
「俺を育てたおじいさん、おばあさんよ。俺は必ず、この偉業を成し遂げてみせる。帰ることができるかはわからない。だから、あえて言おう。さよなら、と……」

 そして、もも太郎は背負った“剣ソードブレイド”……否、雉の別称が余りにかっこよかったので拝借し、短期間の間に名を変え、鬼の血を屠る魔剣へと姿を変えた“覇王神剣ヴァリアスブレード”を抜き払う。

もも太郎「……だが! さよならは別れの言葉ではない……また会う日までの遠い約束だ……」

 偉大なる航路“グランドライン”を抜けた先に、鬼が島は見えていた。
 すべては、そこで終わろうとしていた――。

 * * * * * *

 長い旅の果て、それは漢達の夢の果てである。
 もも太郎は、アルファでありオメガでありもも太郎でした。だから、物語に始まりがあれが終りがあるのも、云わば偶然という名の必然であり、要するに犬と猿と雉とともに鬼が島に到着したのでした。
 鬼ヶ島では、鬼たちが近くの村からぬすんだ宝物やごちそうをならべて、酒盛りの真っ最中です。

鬼「ヒャッハー! 飯だ飯だ!!」

犬「フッ、間抜けな奴等だ。自分達が今から、その皿の上と同等の扱いを受けるなどとは夢にも思っておるまい。しかし結構。世界はぼやけている方が美しい。今宵、痴れ者どもの血も綺麗な色をしていよう」

猿「言ってやるな、地獄の番犬またの名をケルベロスよ……奴らもまた、“ごちそう”という名の楽園(エデン)に踊らされた哀れな子羊なのだから。だが浄化などと生易しいことは言わん。眼を見れば分かる……彼奴らも俺と同様、因果に縛られる者どもよ。手は抜けぬ」

 雉は何か言おうとしましたが三歩歩いているうちに忘れました。

もも太郎「時に忘れ去られた者は、静かに滅びを受け入れろ……この世において、すべては“かりそめの客”……ぬかるなよ、皆のもの」

 もも太郎は素早く敵陣を観察し、鬼の親玉を発見しするや否や、“剣ソードブレイド”……否、雉の別称が余りにかっこよかったので拝借し、短期間の間に名を変え、鬼の血を屠る魔剣へと姿を変えた“覇王神剣ヴァリアスブレード”を抜き放ち、鬼どもが気づく前に、その親玉めがけて走り出しました。

 ――首が、飛んだ。

もも太郎「鬼の首を取る、か……皮肉だね。悪党の血の方がきれいな花がさく……」

鬼「な……ば、バケモノ!?」

もも太郎「俺が化け物? 違うな……俺は悪魔だ」

 酒盛りをしていた鬼達は、いきなり自分達のリーダーを殺されて、唖然としています。
 その隙に、犬は鋭い牙を剥き出しに他の鬼達に襲い掛かりました。猿は両の手の爪を光らせ、鬼の眼球を疾風迅雷のごとき速度で抉り出す。雉は三歩歩いて何をしたらいいのか忘れました。

鬼「何者だ!」

猿「天の道を行き総てを司る! 我こそは正義!」

鬼「不意打ちをして、何が正義――ぐふっ!」

犬「我らを呼ぶなら鬼畜と呼べ、鬼が鬼畜に殺されるなど、皮肉以外の何者でもないがな。その命、極彩と散るがいい。毒々しい輝きなら、優蛾の役は果たせるだろう」

もも太郎「一度この旅に出ると決めた時から心に決めていた。誇りなど、捨てようと。卑怯者のレッテルを貼られようとも構わない……ククク…狂気の沙汰ほど面白い」

 もも太郎が最後の一匹に、“覇王神剣バリアスブレード”を突き立て、勝利の猛りを発する。

もも太郎「錆付けば二度と突き立てられず、掴み損なえば我が身を裂く……そう。誇りとは刃に似ている……」

 もも太郎は人間としての誇りを失いました。その代わり、おしおきという名の殺戮を経て、略奪という名の献上をされた宝物を持って、帰路につきました。
 辺りには、ただ血の臭いだけがしていました。

 * * * * * *

 家に帰ってくるもも太郎の姿を見つけて、おじいさんとおばあさんは気が狂ったように大喜びです。

おじいさん「おお、アルファでありオメガでありもも太郎よ。よくぞ無事に帰ってきた。そなたの帰りを待ち望んでいた。さあ、鬼の宝物をここへ」

おばあさん「おお、もも太郎……いや。デビルよりもゴッドよりも尊い私のエンジェル。さあ、その宝物の中身を見せて、いや、お前の元気な顔を見せておくれ」

 多少本音が出ていましたが、犬と猿と雉を家来にしたもも太郎と、2人は、宝物のおかげでしあわせにくらしましたとさ。

 めでたしめでたし。


 参考サイト: http://blog.livedoor.jp/wordroom/archives/51436762.html

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