豆電球
課題。『テーマを豆電球に500文字以内で書く』こと。
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きらびやかなシャンデリアが照らし出す食卓に身なりの良い夫婦が座っている。
「なあ」
再度、夫が呼びかけたのを聞いて、妻は煩わしそうに髪をかきあげた。
「なによ?」
「いや、花子は東京でうまくやってるかなと思って。変な男に捕まってないだろうか……」
妻はワインを傾ける。
「宝くじが当たったから裕福な生活できてるが、もし宝くじが当たらなかったら、花子は家にいたんだろうな」
馬鹿ね、と妻は笑った。心の底から馬鹿にしたような笑みだった。
「宝くじが当たらなかったら、あなたの安月給だけでどう生活するつもりよ」
妻は爪先を眺める。きらきら光るマニキュアがそこに塗られている。
夫はそっと、妻の横顔を盗み見る。けばけばしい厚化粧。豪華な真珠のイヤリング、ダイヤのネックレス。
妻は変わったと、夫は思う。
貧乏だった頃。節約のため、豆電球だけで質素な夕飯を囲んだあの頃。
すっぴんだった妻には笑顔が絶えず、薄暗い部屋に明るい声がいつまでも響いていた。
豆電球があれば、あの頃に戻れるだろうか。いや、無理だろうな。
溜め息をつく夫の禿げた頭だけが、豆電球のように儚げに光っていた。