歌詞考察『島唄』/THE BOOM

 人によって、受け取り方はさまざまだと思うのだけれど、ひとまず。

・1945年4月1日、沖縄本島にアメリカ軍が上陸し、沖縄戦が始まった。
・1945年4月〜6月、沖縄戦は続き、多数の死者を出した。
・1945年6月23日、沖縄戦終了。

 以前、「宮沢和史の旅する音楽」をいう記事において、宮沢氏は「島唄は、本当はたった一人のおばあさんに聴いてもらいたくて作った歌だ」と述べていた。沖縄音楽にのめりこんでいた宮沢氏が、沖縄のひめゆり平和祈念資料館を初めて訪れた際に、ひめゆり学徒隊の生き残りのおばあさんと出会い、戦争の体験談を聞いた。
 沖縄地上戦で大勢の住民が犠牲になったこと、おばあさんの話を聞くうちに、いかに自分が事実を知らずに生きてきたのかを知り、無知な自分に怒りさえ覚えたという。そして、話を聞き、資料館を見て回った。
 資料館は、あたかもガマ(自然洞窟)にいるかのような造りになっており、集団自決した人のことを嫌でも思い起こさせたという。そういった人たちのことを考えると涙が止まらなかった。資料館から出ると、ウージ(さとうきび)が静かに風に揺られており、ガマとウージを対比させて曲を作り、おばあさんに聞いてもらいたいと強く思った。これが、「ウージの森であなたと出会い ウージの下で千代にさよなら」という歌詞に繋がっている。そこを起点として、歌詞を見ていきます。

 * * * * * *

 まず、前知識として。
 でいごの花は3月末に開花して4月中頃までが一般的には時期とされている。

>でいごの花が咲き
>風を呼び 嵐が来た


 でいごの花が咲き始める頃(=4月1日)、沖縄本島に米軍が上陸した。
 風、嵐は、米軍というよりも戦争を指していると捉えたほうがいいかもしれない。風から嵐へと、戦争の規模が拡大する様子を表現している。

>でいごが咲き乱れ
>風を呼び 嵐が来た
>繰りかえす哀しみは 島わたる波のよう


 戦争は続き、やがて、でいごの花が咲き乱れる時期へと移る。でいごの花がちらほらと咲き始める季節から、一面に咲き乱れる季節へと移り変わることで、戦争が進行していく様子を表現している。
 沖縄の人々の、戦争によって自らの街を焼かれた悲しみ、大切な人を亡くした悲しみの数は増える一方で、止まることを知らない。それは、寄せては引く波のようにいつまでも繰り返された。

>ウージの森で あなたと出会い
>ウージの下で 千代にさよなら

 ここが、この唄を作るにあたって、宮沢氏がもっとも重視したフレーズだと思われる。
 ウージとはサトウキビである。サトウキビの高さは、成人男子の身長より高く、まるで森のようだという。このことから、沖縄では、サトウキビ畑のことをウージの森と言う。
 対して、ウージの下とは、その名の通り、地下(洞穴)を現す。天然の洞穴(ガマ)を利用して作られた防空壕のことである。
 サトウキビ畑であなたと出会い、ガマ(防空壕)で永久の別れ――自決である。「千代にさよなら」とは永久の別れ――死を指すと同時に、「千代」から「君が代」へと連想し、集団自決を連想させるフレーズ。

>島唄よ 風にのり
>鳥と共に 海を渡れ
>島唄よ 風にのり 
>届けておくれ わたしの涙

 “島唄”とは、本来、この曲のタイトルのみを指すものではなく、沖縄民謡全般を指すものである。また、沖縄では人の魂は死後、鳥になるとされている。
 島唄(沖縄民謡)よ、風に乗れ。そして、死者の魂と共に海を渡れ。
 島唄よ、風に乗れ。そして本土(日本本島)に伝えておくれ、沖縄戦の悲しみを、戦争の苦しみを。

>でいごの花も散り
>さざ波がゆれるだけ
>ささやかな幸せは うたかたの波の花

 でいごの花の開花から完全に散るまでを歌詞にすることで、時の流れをあらわしている。
 完全にでいごの花も散ってしまい、それからさらに時間が経ち、今はただ静かに波が揺れているだけである。つまり、戦争が終ったことを指す。「さざ波」は何もかもが終り、どことなく、むなしさが漂う感じを与える。戦争は終ったが、結局、何も得られず、ただただ、何物にも代えがたい命がたくさん散ってしまっただけであることを示している。
「うたかたの波の花」とは、波しぶきを指している。波しぶきは、現れたと思ったらすぐに消えてしまう。ささやかな日常、ささやかな幸せは簡単に崩れ去ってしまったということを指す。

>ウージの森で うたった友よ
>ウージの下で 八千代の別れ


 サトウキビ畑で謡いあった友達も、皆と同じように、戦争でガマ(防空壕)の中で亡くなった。

>島唄よ 風に乗り
>鳥とともに 海を渡れ
>島唄よ 風に乗り
>届けておくれ 私の愛を

 島唄よ、風に乗れ。そして、死者の魂と共に、海を越えろ。
 島唄よ、風に乗れ。そして、本土(日本列島)へと届けておくれ、私の愛(=平和への想いか)を。

>海よ
>宇宙よ
>神よ
>いのちよ
>このまま永遠に夕凪を


 海に、宇宙に、五穀豊穣をもたらす神に。そして、何物にも代えがたい命という宝に。これ以降、争いが起こることなく、永遠に平和が続くことを祈る。

 皆さんは、島唄に込められた意味を知ってましたか? 「島唄」というのは、上記にも述べたように、一つの曲名では無く、沖縄民謡全般を指します。沖縄人は誰かに何かを伝えたいときは唄を歌います。沖縄人は楽しいときも、嬉しいときも、悲しいときも、怒ったときも、辛いときも、その気持ちを唄に歌って表現します。
 そう、それが本来の意味の「島唄」です。この、THE BOOMの「島唄」は、平和への想いを強く唄ったものです。この唄の意味を知らずに聞いていた人も、ぜひ意味を知って平和の大切さを知ってほしいと思います。
 一時期、youtubeで流れた動画は上記のような解釈をベースにしていますが、日本側を強く押し出しすぎていて、そこで解釈が違うとされ、削除されるに至ったそうです。ただ、「沖縄の人たちの悲しみ、平和への願い」がこの唄の根幹にあるという解釈は、間違っていなかったと思います。

*この解釈は、ほぼ共通の解釈です。

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