歌詞考察『にんげんっていいな』/にほんむかしばなし

 最近、久々に「日本むかしばなし」を観ました。
 あいかわらず、気になるのは主題歌「人間っていいな」の内容です。

>くまのこ見ていた かくれんぼ
>おしりを出したこ いっとうしょう
>夕やけこやけで またあした
>またあした

>いいな いいな
>にんげんって いいな

>おいしいおやつに ほかほかごはん
>こどもの かえりを まってるだろな

>ぼくもかえろ おうちへかえろ
>でんでん でんぐりかえって
>バイ バイ バイ

 一番だけを斜め読みしても、いまいち意味が通りません。また、映像の子どもは素っ裸でどこかシュールです。この歌を少し自分なりに考えてみました。
 
>くまのこ見ていた かくれんぼ
>おしりを出したこ いっとうしょう

 一番は、熊の子の視点です。動物が、人間を客観的に見ています。
 この歌で、誰もが気になるのは最初のフレーズ。「おしりを出した子」が「一等賞」なのです。よく言われる言葉に、「頭隠して尻隠さず」とあるように、お尻を見せてしまったら鬼に見つかりますよね。かくれんぼにおいては、負けということになります。それなのに、一等賞。
 負けたのに一等賞です。ここに疑問が残ります。しかし、二番の同じ位置にも同様の疑問が残ります。

>もぐらが見ていた うんどうかい
>びりっこげんきだ いっとうしょう

 二番は、もぐらの視点です。
 運動会で、びりっこ。びりっこなのに一等賞。こちらはまだ、「元気だ」とあるので、元気さで一等賞という意味なのかもしれませんが、負けは負けです。
 一番の歌詞同様、負けたのに一等賞です。

 これはどういうことか。
 一番と二番で、熊ももぐらも、人間の様子をただ観察しています。歌詞に「熊が人間を襲う」もなく、「もぐらが人間を怖がって逃げる」ともなく、終始それを眺めています。

>夕やけこやけで またあした
>またあした

 一番も二番も、これでAメロは締まります。
 人間の子供たちは、夕方になると「また明日ね」と、家に帰っていくのです。その後にこう続きます。

>いいな いいな
>にんげんって いいな

 一番では、以下のように続きます。

>おいしいおやつに ほかほかごはん
>こどもの かえりを まってるだろな

 熊の子の視点です。したがって、「(人間の親が)子どもの帰りを待っているだろうな」と見ているのです。
 熊の子はもしかしたら、自然界の競争の中で親も失っているのかもしれません。人間社会とは違って過酷な世界では、「おいしいおやつ」や「ほかほかごはん」というようなものは保証されません。

 二番では、次のようなフレーズです。

>みんなでなかよく ポチャポチャおふろ
>あったかい ふとんで ねむるんだろな

 二番は、もぐらの視点です。
 もぐらも厳しい自然界に生きています。「ポチャポチャおふろ」や「あったかいふとん」のように、リラックスして休息できる場はありません。

 一番や二番の歌詞にある「一等賞」というのは、熊の子やもぐらのような動物たちから見れば、幸せな環境で生きている人間こそ、すでに一等賞であるという意味なのです。
 かくれんぼに、一等賞ってありますか? 最後まで見つからなかったら一等賞? そんなルールは、聞いたことがないです。運動会については、「びりっこ」というフレーズがあるので、まだわかります。しかし、かくれんぼの一等賞ってわからないんですよ。
「熊の子が見ていた、かくれんぼ。おしりを出した子は、鬼に見つかり負けた。でも、人間の生活そのものが一等賞!」
 こう考えたらどうでしょうか。
 ここで言うところの一等賞は「人として生きていること」そのものが一等賞なんだよ、一番いいんだよ、という、あたたかい言葉なのだと捉えることはできないでしょうか。

 動物達は人間がうらやましい。だけど、人間には人間の、動物には動物の住む世界があります。

>ぼくもかえろ おうちへかえろ

 歌の最後で、自分たちの住む世界に戻ろう、と動物たちは考えます。
 しかし、それでも、幸せな人間に対する気持ちは消えない。
 だからこそ、忘れてはならない最後のフレーズ。

>でんでん でんぐりかえって
>バイ バイ バイ

 なぜ、最後にでんぐり返しか?
 でんぐり返しの意味を調べてみます。

>「でんぐり返る」
>1.手を地について、からだを前または後ろに1回転させて起きる。
>2.さかさまになる。ひっくりかえる。

 動物にとってのでんぐり返しとは?
 幸せじゃない今の環境から、「ひっくりかえる」。つまり、幸せな人間のような環境で生きること。(人間になりたい、という意味ではないと思います。)

 人間にとってのでんぐり返しとは?
 ぬくぬくと生きていける、今の幸せな環境が「ひっくりかえる」。つまり、過酷な環境に身を置くことを指します。(動物になる、ということではない)

 動物には、良い環境で生きていけたらいいね。
 人間には、今置かれている立場が幸せなんだよ。
 そう語りかけています。

 日本むかしばなしの映像を見ると、動物も人間もでんぐり返ししています。
 ここで、この映像の人間が裸だったりするのは、どこかコミカルで、不思議な印象を受けます。あれ自体が、どこか遥か高みから、人間と動物を眺めているような印象を受けます。
 したがって、文字通りの歌詞で捉えるよりも、伝えたいことの比喩表現だと思っています。熊が捕食する人間を探しているとか、人攫いの比喩だとか、そんな風に曲解しなくていい、わかりやすいストレートな比喩です。

 この歌が一貫して語り掛けたいことは、ただひとつです。
 かくれんぼで負けても、かけっこで負けても、人間として生まれてきている事実こそ、もう「一等賞」なんだよ。だからこそ、今生きている人生を無駄にせずに頑張っていってね。
 そんな、わかりやすいエールだと思っています。

←back  next→
inserted by FC2 system