21.「今日と明日との狭間」

『どうした、時計をじっと見つめて?』

「今、零時! 日付が変わったよ」

『それがどうかしたのか?』

「実は今日、誕生日なんだ」

『お前、先週もそう言って、俺に酒奢らせただろ』

「アルコール入ってたから、忘れてると思ったのに」

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

22.「皆無」

「そうだ、前貸したお金返してよ」

『残念、今日は金無いんだ』

「いつ払うつもり? 早く払って欲しいんだけど」

『そう言えば、五回ほどお前の飲み代立て替えてただろ?』

「……」

『一回分チャラってことで、残り四回立て替えた代金早く払えよ』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

23.「相容れないモノ」

『酒の肴はタコワサが美味いと思う』

「お酒のおつまみは柿ピーだと思う」

『年の割にガキだな』

「年の割にオッサンだね」

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

24.「万有引力」

「ニュートンはリンゴが落ちるのを見て万有引力を発見したんだよね」

『その通りだな』

「別に、トイレの時に発見しても良かったんじゃない?」

『便が落ちるのを見て、全ての物に引力が働いていると発見したってか?』

「うん」

『浪漫もクソもあったもんじゃないな……』

「クソとか食事中に言わないでよ」

『お前が言うな』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

25.「白煙」

「あのさ、煙草吸うときに煙こっちにかけないでくれないかな」

『悪い悪い』

「大体、吸った以上は責任持って、吐かずに全部吸い込んでよ」

『無茶言うなよ……』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

26.「流れる糸」

『お前は人生って考えたことあるか?』

「あるよ」

『人生は機から流れ出る糸のようなもので、始まりから終わりまで止まることがない』

「ふーん」

『要するに俺の煙草もだな――』

「でもそれが煙草を止めない理由にはならないよ」

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

27.「きみのてのひらにキス」

「外国人がよく手のひらにキスとかするじゃない?」

『あれは手の甲だったと思うぞ』

「そうだっけ? どっちでもいいけどあれって相手への敬意を表してるらしいよ』

『そうか。で、俺に手なんて差し伸べてどうした?』

「キスして敬意を示してよ」

『つまみを一口分けてくれただけなのに、何を偉そうに』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

28.「強い手と長い睫」

「睫の長い、線の細い男性の出てくる昔の少女漫画」

『それがどうした?』

「何であんなに華奢なのに、実はスポーツ万能だったりするんだろうね」

『まあ、漫画だからな』

「そうだね」

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

29.「指輪」

『お前、結婚してたのか?』

「してないよ」

『その薬指の指輪は?』

「何となく薬指につけてみただけ」

『ファッションか』

「ファッションだよ」

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

30.「携帯電話」

「どうしたの、携帯なんてじっと見て」

『ちょっとな』

「何してるの? メール?」

『ネカマ』

 今日も酒場の夜は静かに明けていく。

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