『小さな覚醒者』――私が、全部わるいの。

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概要

 作者は前半部分を「◆Artinjg9bw」さん。後半部分を「824」さん。末尾の加筆を「Yoshi」。
 魔法時代の末期、サラというひとりの幼いカオスの少女がいた。
 サラは「ティアルガの惨劇」を引き起こし、後にノヴァラ氏族の者に保護される。(「ラグルドの道」参照)
 ノヴァラ氏族の集落のひとつ、マイス集落で、サラは人のあたたかさに触れていく。

登場人物

■サラ・ブライト
 ……カオスと呼ばれる、強力な魔力を秘めた10歳の少女。絵を描く一族のキディルアナ氏族を母に持つ。
■ピティ
 ……15歳のカオスの少女。ヴェルシア氏族を父に持ち、音楽でマナを行使する。
■シャイン・レイヴナント
 ……ノヴァラ氏族の少年。姉と旅をしていた。
■カロス
 ……ピティの父。ヴェルシア氏族。
■クレア
 ……ピティの母。ヒュマン。
■ヤマナ
 ……マイス集落の族長。

小さな覚醒者


 サラは今日も一人、泣いていた。涙と泥でぐちゃぐちゃの顔を左手の甲でぐいぐいと擦る。
 右手には木の枝、こうして地面に絵を描いているとだんだん気分が落ち着いてきた。今描いているのはちっちゃな子犬だった。
 毛は茶色で、目がクルクルっとしてて、そんな姿がすでに私の頭の中にはある。
 でも、私は絵が完成する前にいつも消すことにしている。だって、完成しちゃうとその子犬が動き出しちゃうから。
「これも、私が覚醒種(カオス)だからなのかな……?」
 絵が動くことを知った村人が私を恐れるようになった。
 カオスめ。何度もそう言われた。
 集落の子たちにはいじめられた。カオス、カオス。悪魔の子。そう言われた。
 カオスだからいじめられて当然なんだ、と言う子もいた。
 お父さんが地球(アース)ってところの人で、ティアルガの集落に来てお母さんと出会って私が産まれたらしい。守ってくれるはずだったお父さんはある日、村を訪ねてきたアースの人について村を出て行った。私とお母さんを置いて、どこかへ。私もお母さんも泣いた。
「どうして……どうして……」
 そう言って泣いていたお母さんの顔を今もよく覚えている。
 子供たちのいじめは日を追うごとに勢いを増した。大人たちは私やお母さんに辛く当たるようになった。
 私は当然のようにいじめられ、いつしかお母さんは笑わなくなった。
「カオスめ」
「カオスがなんだってんだ」
「カオスならすげー魔法でも使ってみろよ!」
 いじめかたは子供らしく、言葉で罵って、叩いて、蹴る。ただ私が泣くのを見て楽しんでいる、ただそれだけ。
 お母さんは朝から夜まで働きに出ているから、守ってくれる者はいない。
 カオス、カオス。カオスカオス。同じ言葉を毎日言われるということは、それ自体、呪いに近かった。
 カオスっていうのは悪いもの。私はいつしかそう認識するようになっていた。だから私はいじめられるのは仕方がない。悪いモノなんだから仕方ない、とそう思うしかなかった。
 でもその日、その日のいじめはいつもと違っていた。
 毎日同じようなやり方では飽きたのだろう。子供たちはどこから連れてきたのか、幼いザラト狼を檻に入れていた。私はなぜか、モコーの生肉を持たされていた。
「いけ! そこのサラっていうカオスをぶちのめせ!」
 そして、私にけしかけたのだ。お腹をすかせた子狼は私に一直線に向かって来る。
 最初に獣のエサを渡されていたのは、そういうことだったのだ。私は恐怖で逃げることもできず、ただ疾走してくるその黒い獣を凝視し続けた。
「やめて。もう、やめて……」
 私はか細い声を絞り出す。でもそれは、誰にも届かない。
 だから私は産まれて初めて、ありったけの声を出して叫ぶことにした。それは、狼が私に襲い掛かる一瞬前だった。
 にやにやしている村の子供たちの顔を見ないように目をぎゅっとつぶって――
「もう、やめてえぇ!!」
 瞬間、魔力が放出されるのを、ありありと感じた。周囲のマナが一気に凝縮されるのが何となくわかった。
 そして、それを引き起こしたのは私の言葉だった。私の“言葉”は凝縮されたマナに大きな獣の姿を描いた。
 獣は、本の挿絵で見たことがあった幻獣だった。恐怖の中、なぜかそれが頭に浮かんだのだ。一瞬にして幻獣は描かれ、そして動き出した。
 否、暴風のような荒々しさで、それは村このティアルガの集落ごと私を除く全てを吹き飛ばした。私の意識は闇に沈んでいった。
 ……気がつくと、私は荒野の真ん中でぽつんと一人、座っていた。
 ここはどこだろう? 全然見覚えのない景色。でもこの空気はよく知っている気がする。
 よく似ている。私の育ったあの村に。
 頬がちくりと痛んだ。思わず手でおさえる。そこには一筋の傷跡と流れた血の跡があった。
 そう、私に襲い掛かろうとしたあの黒い獣は、私が叫んだと同時くらいに私に傷をつけていたのだ。だから、私はすぐに理解した。
 あぁ、これが私の力なんだ、と思った。
 草木も、花も、畑も、家も、人も、みんな私が消してしまった。そう、大好きなお母さんも……けれど、泣き虫な私はなぜか泣いていない。悲しいはずなのに。
 おもいっきり泣きたかった。泣いて、私の心はまだ壊れていないと思いたかった。だから、呟いた。何度も、何度も。
 ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい。謝ろうとしたけど、言葉は出なかった。
 足に力を入れてみた。案外、簡単に立てた。
 私は立ち上がり、当てもなくどこかへ歩き出した。

 *

 人に聞こえるか聞こえないか、そんな声で鳴いたそれは一瞬で村の全てを荒野に変えた。たった一人、小さな女の子を残して。
 私は手を伸ばすけれど、女の子には届かない。
 女の子の唇が動く。ごめんなさい、ごめんなさい、と。しかし、声は出ない。
 ――こっちにおいで。そこにいたら助けられない。
 ――辛かったね、悲しかったね。苦しくてどうしようもなかったんだね。
 ――だから、こっちにおいで。
 ――私はあなたに歌を歌うよ。ピアノを弾くよ。笛を吹くよ。
 ――あなたを守るよ。小さなあなたを私は守る。
 ――だから、どうか、笑って。
 ――そして、どうかここに。

「サラ……!」
 そう叫んでピティは目を覚ました。
 瞬きをしたら、冷たい液体が頬を流れた。眠りながら泣いていたようだ。
 変な夢だった。でも、どんな夢だったのか今はもう思い出せない。
 そう言えば起きた時に叫んだ気がする。自分は何と言っただろう? いったい何を──
「きゃあっ!」
 突然、母クレアの悲鳴が聞こえてピティは我に返った。
 慌てて部屋を出てクレアの所へ駆け寄る。
「お母さんっ! どうしたの!?」
「ああ! ピティー!」
 見るとそこには半泣きになったクレアの姿と無残にも粉々になった皿が数枚あった。
「やぁ、おはよう、ピティ。母さんたらまたやっちゃったんだよ」
 半ば呆れたように父カロスは言った。
「お父さんおはよう。二人とも怪我しなかった?」
「大丈夫だよ。それよりピティ、またお願いできるかい?」
 カロスがそう言うと、ピティはにっこりと笑って頷く。
 ピティはゆっくりと深呼吸すると、割れた皿の前に立ち、歌を歌い始めた。すると粉々になっている皿の破片たちが静かに光り始めた。ピティは歌い続ける。
 やがてその光は皿全体を包み、次の瞬間にはもう皿は元通りになっていた。

 ピティはヒュマンの母クレアとヴェルシア氏族の父カロスとの間に生まれた覚醒種だ。彼女に与えられた力は驚異的な癒しだった。
 彼女が歌を歌うと壊れたものは再生し、ピアノを弾くと何もない所から植物が生え、笛を吹くと小さな怪我くらいならあっという間に治してしまう。
 今はまだそんな規模だけど、いつかはもっと多くの人を癒せるようになる、と両親は揃って言う。
「いつ聴いてもピティの歌は素晴らしいのう。我らの保養じゃて」
 気がつくといつの間にか村長のヤマナが側にいた。どうやらピティが歌っている間に来たようだった。
「おじいちゃん、来てたなら声かけてよー」
 ピティは村長をおじいちゃん、と呼ぶ。駆け落ち同然にヴェリを抜け出してきたクレアとカロス、そして生まれたばかりのピティを受け入れてくれたこのノヴァラの小さな集落マイスだ。
 マイスに住む者は、ピティの家族も同然だった。
 だけどノヴァラ氏族は一様に、集落の外へ出る。昔からそうして出稼ぎを続けてきたのだ。
 ピティの親友のシャインも、実の姉のように慕ってきたティアラも、今はマイスの外へ出ている。
「あら、村長さんはちゃんとノックしてたわよ」
 クレアの言葉を聞いてピティは、そうだったっけ、と首を傾げた。
「はは、ピティは一度歌い始めると周りの音が何も聞こえなくなるからなあ」
 カロスが軽快に笑ったが、村長さんは何やら思案にふけっているようだった。
「どうしたの、おじいちゃん?」
「実はな、今日はお前さんがたに相談があってな……」
「相談とは?」
 父も神妙な顔つきになり村長に尋ねた。
「それは私たちから話すわ」
 そう言って、玄関から入ってきたのは、
「ティアラお姉ちゃん、シャイン!」
 ピティの大好きな二人だった。

「実は、カウムース大陸で護衛をしていたときのことなんだが」
 ティアラは出された緑茶(ノヴァラの特産品である)をすすりながら言った。
 その隣にはシャインと、一人の少女がいた。少女の表情は俯いていて、わからない。
「荒野と化した村で、この子を見つけてな。本来ならば、そのときの護衛対象であったエターナという女性が引き取ることになっていた」
 ティアラの淡々とした語り口から、よくない話であることはピティにも想像がついていた。
「……私は、ノヴァラの、このマイスの恥さらしだ」
 突然、ティアラが机を拳で撃った。
「ティアラお姉ちゃん!」
 ピティが大きな声をあげたので、ティアラの隣に座っていた少女がびくっと肩を震わせる。
 ティアラがその様子を見て、慌てて謝った。
「取り乱してすまない。その、エターナが死んだ。私の実力が及ばなかったせいで、死んだ。私が殺したようなものだと思う」
「姉ちゃん、言うなよ。あれは仕方なかっただろ」
 シャインが口を挟むが、ティアラは大きく頭を振った。
「いや、ノヴァラの戦士が仕方なかった、で済まされるか。私は弱い。だから、エターナを助けることができなかったのだ」
 カロスもクレアも、そしてヤマナも、ティアラの話を静かに聞いていた。
「このようなこと、頼めたことではないと思う。どうか、ご両人。今しばらくは黙って聞いていてほしい。罵るなら最後にしてほしい」
 ティアラは頭を下げた。
 慌てて、カロスがそれを制そうとするが、ヤマナがそれを止めた。
 ヴェルシア氏族のカロスにはわからない、ノヴァラ氏族の心がそこにはあるのだと、ピティは何となくわかった。
「私は今しばし、修行のたびに出ようと思う。極寒の地アベリアでこの身を鍛え、世のため人のため、ノヴァラの戦士として恥じぬ立派な女戦士になりたいのだ」
 ピティは知っていた。ティアラがマイスの男たちに負けぬように日々たゆまぬ努力をしていることを。一度、それを見てしまったことがあるのだ。
 そのときもティアラはピティに黙っているように、と念を押した。このことは弟のシャインにも内緒なのだ。
「シャインはしばしここに残ることになっておる。そして、また外へ出る」
 シャインは何か言いたそうに口を開きかけたが、すぐに真一文字に口を閉じた。
「だから、この子を預かってはくれぬか」
 ティアラの言葉にヤマナが静かに頷いた。
「のう、ピティ」
「はっ、はい?」
 突然、話が振られピティは驚きの声をあげてしまった。
「その子の面倒を見てやってはくれんか? 外に出るシャインを除けばこの村で一番若いのはお前だし、女の子同士だったら何かと打ち解けやすいじゃろう」
 確かに、村に残ったおばさんや、お年寄りなどよりは、同じ年齢であるピティならばこの子も喋りやすいかもしれない。何よりピティは前から妹が欲しかった。となれば答えは一つである。
「うん、分かったよおじいちゃん」
「引き受けてくれるか! ありがとう。さあ、後の詳しい話はわしらだけでするとして、お前たち二人は上の階に行って遊んで来なさい。なに、二人ともすぐ仲良くなるさ」
「行こっ!」
 ピティは少女の手を引っ張ると、強引に走り出した。少女は少し抵抗しようとしたが、すぐについてきた。

「ここが、私の部屋」
 ピティは自分の部屋に少女を入れて、説明した。
 そして、改めて彼女を観察する。金髪で髪の長い、なんとも可愛らしい女の子だった。
 年は九歳か十歳といったところだろう。ピティは十五歳だから、ピティのほうがずっと年上だった。
 いきなりこんな可愛い妹が出来るなんて私はきっと世界一幸せものだ、とピティは思った。すぐに嬉しくなってくる。
「初めまして、私はピティ。十五歳よ。あなたのお名前は?」
 ピティは笑って少女に手を差し出した。女の子は少し驚き、やがておずおずと手を出す。
 そして二人の手が触れた瞬間、ピティは思い出した。今朝、見た夢のことを。
 恐ろしい幻獣の鳴き声、荒野になった村。呆然と立ち尽くす小さな女の子。
 その子の名前を叫んで自分は夢から覚めた。そう、必ず守ると約束して――
「あなたは……」
 突然様子が変わったピティを見て少女の顔が少しこわばった。
「あなたの名前は……サ、ラ、ちゃん?」
 少女は目を見開き、ピティを見つめた。
「……わたしの、名前、知ってる?」
 その顔に不安そうな影がよぎっているのを見つけたピティは慌てて言葉を続けた。
「あ、え? いやあ、何となくあなたの名前がサラちゃんっぽいなあ、なんて! ほらほら、髪サラサラだしね!」
 怪訝そうな顔で見つめるサラだったが、その一言にますます首をかしげた。
「そう、私は変なのよ、あははは! さ、気を取り直して説明するね。ここが私の部屋、好きに使ってね! 歌を歌うもよし、暴れるもまたよしだよ!」
 それからピティは簡単に自分の部屋とこの家、そしてこの村について説明した。
 サラは最初に比べればまだましであったが、やっぱりどこか上の空といった様子だった。
 ピティはそんなサラの顔を見つめながら考えた。
 やっぱりこの子は夢の中で泣いていたあの子なのかな。もしあの夢が本当に起こったことだとしたら、あの幻獣らしきものは何故現れたのだろう。
 突然村に来るとは考えにくいし、誰かが呼び出したのだろうか。そうだとすれば、誰が、何のために?
 それに何故、夢の中の少女だけ殺されなかったのだろう。村を一つ破壊しただけにとどまらず、周囲の草木一本も残さず荒野へと変えてしまったものが少女一人だけを残すとは考えにくい。
 呼び出した術者ならまだしもである。いや、それなら、それならばもしも。
 ――もしもあれを呼び出したのが一人生き残っていた少女で、このサラちゃんなら?
 そんなまさか。ピティは馬鹿げた考えをすぐに頭の隅に追いやった。
 今はそんな事よりも、サラが一刻も早くこの環境になれてくれることのほうが大切だった。
「はい、これでこの家の説明はおしまい! じゃあ遊ぼうか!」
 ピティの言葉にサラはまったく何の反応も見せなかった。
「おーい、お話し終わったよ?」
「……」
 やはりサラは反応してくれなかった。ずっと下を向いたままだった。もしかして。
「わあっ!」
「ひゃ!」
 ピティが大きな声を出すとサラはびっくりしたらしく、やっとピティの顔を見あげた。
 もしかして、途中からまったく話を聞いていなかったのだろうか。ピティがそんな思いを抱いているとシャインが部屋に入ってきた。
「ちょっと、ノックくらいしてよね! 女の子の部屋よ!」
「いいじゃんいいじゃん、お前に女っ気なんてねえし」
「あるわよ! ありありよ!」
 肩ではあはあと息をするピティを覚めた目で見ながら、シャインは言った。
「悪かったって。あんまりうるさくするなよ。サラがびっくりするだろ」
 その大人びた様子を見て、ピティは少し胸が苦しくなった。
 きっと、シャインも今回の護衛の旅で滅入っているのだ。
 ティアラと行動を一緒にしていたのだから、当たり前だ。二人はまるで双子のように仲良しで、似ていなさそうで似ていて、一心同体とも言える存在なのだ。
「ティアラお姉ちゃんは?」
 ピティはシャインに尋ねた。
「行ったよ」
「どうして、声かけてくれなかったのよ!」
 シャインはちっと舌打ちすると、ピティの耳に顔を寄せそっと囁いた。
「サラに気をつかったんだよ」
 そうか、とピティは納得した。
 この旅でどんなことがあったのか、ピティには想像もできない。だけど、エターナという女性が死んだ。彼女がどういった存在かはわからないけれど、みんなに慕われていたのだということは何となくわかった。
 ピティは、その話題は避けようと決めた。
 そして、口を開いた。
「ねえ、サラちゃん、シャインの秘密教えたげよっか?」
「はあ!?」
 慌ててシャインは口を開く。
「こいつったらね、十歳になるまでオネショしてたんだよ」
「ば、馬鹿言うな! 九歳だろ!」
「どっちにしたって、変わらないじゃん」
 ピティがけらけら笑うと、シャインが拳を握り締めた。
「お前、なあ!」
「ぎゃはは、怒った怒った!」
 そう言って逃げるピティを、シャインが追いかけた。
 サラがそんな様子を見て、かすかに笑ったのにピティは気づかなかった。

 *

 それから、ピティとシャインは毎日サラと一緒に遊んだ。
 少し離れた村までおつかいに行ったり、一緒にクレアの料理を手伝ったり、花畑で冠を作ったり、いつも一緒にいた。シャインは女の子二人に混じるのが恥ずかしそうだったが、護衛だという一言で納得してついてきていた。
 シャインもまた、ピティのよく知っているシャインに戻ってきた。
 やがてサラはピティとシャインが大好きになった。カロスもクレアも、ヤマナも、そしてこのマイスの集落の全てが。
 サラが歩くと、マイスの人たちは優しく声をかけてくれた。
 いつもどこかで剣を振るう音がして、それが何だかおっかなかったけれど、それを振るう人は優しかった。
 料理をする度にクレアがお皿を割って、ヴェルシア氏族のはずなのに少し音痴なカロスが歌ってはブーイングを浴びて、シャインがことあるごとにピティに馬鹿にされて、ピティはいつも笑っていて、どの瞬間もサラにとっては今まで感じたことのない幸せだった。
 ゆるゆると、だけど確実に自分の凍りついた心が溶けていくのをサラは感じていた。
 でも、まだ、サラは言葉を発することはなかった。後にも先にも初日のあの一言だけであった。それほど、ピティがサラの名前を当てたことは、彼女にとってびっくりすることだったのだ。
 もし自分が喋ればきっとピティは泣いて喜んでくれるだろう。そして毎日はもっともっと楽しくなるだろう。でもサラは怖かった。
 もしもうっかり自分がカオスだという事がばれたら、もしも自分がティアルガの集落を荒野に変えた恐ろしい人間だという事がばれたら、きっとマイスの皆はもう自分に優しくなんてしてくれないだろう。
 だけど、そう。自分はもともと人に優しくされる資格なんてない。嫌われて当然じゃないか、罵倒されて当然じゃないか。
 今までだってそうだったし、あのときからはもっと……。今までずっと嫌われ者の自分の味方だった母親の命を、そして、ティアルガの人々の命を一瞬で奪ってしまったのだ。
 怖い、とサラは思った。
 ピティは初めて会ったときに、サラ、と言った。初対面のはずの名前を知っていた。
 もしかしたら、ピティはもう全てを知っているのかもしれない。それが怖かった。
 でも、それなら、彼女はなぜあんなにも自分に優しくしてくれるのだろう。いっそのこと責めてくれればいいと思う。あの綺麗な顔を歪ませ、ここから出て行けと罵倒してくれればどんなにか楽だろうと思う。

 その夜、サラは夢を見た。まだ自分が赤ん坊だった頃の夢だった。
 ティアルガの集落はまだ美しい草原に囲まれていて、たくさんの人々が生きていた。
 サラは誰かに抱かれている。お母さんだ。子守唄を歌っている。この歌、大好きだったな。あ、お父さんだ。お母さんと二人で笑ってる──私、幸せそうな顔してる。
 ――カオスめ。
 聞きなれた文句が耳に響き、気がつけばあたりの景色は変わっていた。一面の荒野だった。そこに立っているのは自分ひとりだけだった。
「お父さん、お母さん」
 サラは呼びかけてみた。
 本当はわかっている。サラの父は、サラの母と幼いサラを残してどこかへ逃げ去ったのだ。
「お母さん!」
 サラはもう一度、呼びかけてみた。返事は無く、聞こえるのは風の音だけだった。
「……ラ」
 突然、足首を冷たい何かが掴む感触がした。
 サラが地面を見てみると、そこには血だらけになった母がいた。
「お母さん……?」
 あまりに変わり果てた母の姿を見て、サラは必死に逃れようとした。しかし強く握られた手は、サラの足を離そうとしない。
「ひ、ど、い、わ……、サ、ラ」
「ひっ……!」
「あな、た、だけ、そう、やって、幸せに、なるの、ね」
「や、やめ」
 サラは抗議の声をあげようとしたが、恐怖のあまり意味を成さなかった。
「あな、た、も、死ねば、いいの、よ」
 ――この、カオスめ。
「痛い、痛いよ、お母さん!!」
 サラの細い足は母の朽ちた手によってゆっくり握りつぶされていく。
 最初に足が折られ、次は、支えを失って地に這うサラの手を。そして、最後にはその首を。
 薄れていく意識と景色の中にサラは思う。
 あの歌、小さい時に聴いたあの子守唄。もういちど、聴きたい。
 あの唄、お母さんが歌ってくれたあの優しい声。もういちど。

 ――サラは飛び起きた。
 汗で全身が濡れていた。夢だったようだ。隣で寝ているピティを見つけて、サラは安心した。
 まだ太陽は昇る気配すら見せておらず、窓の外は漆黒の闇が支配していた。
 なんだか怖くなって、サラは膝を抱え込んだ。ベッドのきしむ音でピティが目を覚ます。
「あれ、起きちゃったの?」
 サラは返事をすることがやっぱりできなかった。喋れない。言葉が紡げない。声が出ない。
 本当は怖い夢を見たことを言いたかった。今でも思い出すと全身が震えそうだった。泣きたい。でも、涙もあのときに枯れ果ててしまった。
 自分の臆病さにサラは吐き気さえ覚えた。
 サラが怯えていることに気づいたのか、ピティはそっとサラを抱きしめた。
「怖い夢を見たの?」
 サラは何も言わなかったが、代わりに小さく頷いた。
「そっか」
 ピティにはそれしか言えなかった。サラを抱きしめることしかできなかった。
 どうすれば、この子の、可愛い妹の痛みを取り除いてやれるのだろう。ピティは歯がゆくて、自分を叱咤したかった。
「ヴェルシアの血、か。意味ないよね、そんなの」
 始祖への呪詛を呟いたときだった。
 突然、ピティの頭の中に歌が流れてきた。この唄はなんだろう。初めて聞くメロディ。だけど、ほっとする温かなメロディ。
 ピティは自然とそのメロディを口ずさみ、その唄を歌っていた。

 ──お休みなさい、天使のように優しい子。
 ――マナの力に守られて、今はただただ眠りなさい。
 ――私はあなたを愛してる、みんなあなたを愛してる。

「……!」
 サラは驚いた表情でピティを見つめた。
 なおもピティは唄を歌い続けた。サラは真剣な表情でそれを聴いていた。
 歌い終わると、ピティはサラが自分を凝視しているのに気づいた。
「え、この歌? あは、なんかさっき急に頭の中に流れてきたの。すごく綺麗な曲だよね。歌詞の感じから子守唄かな? ……あ、もしかして今、子守唄なんて歌って子ども扱いするなって思った?」
 サラは慌てて首を横に振った。
 そんな様子を見て、ピティは笑った。
「あはは。でも、こんな綺麗な子守唄を歌って貰えた赤ちゃんならきっと今、すごく幸せに暮らしてると思わない?」
 ピティの言葉を聞いて、サラの目から堰を切ったように涙が溢れ始めた。
 ピティが歌ったのは、紛れもないあの唄。サラがもう一度聴きたいと願ったあの唄。優しい母がサラのために歌ってくれた子守唄だった。
「え、さ、サラちゃん?」
 突然泣き出したサラにピティは驚いた。
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
 泣きながら謝るサラを、ピティは慌ててなだめた。
「サラちゃん落ち着いて、大丈夫、大丈夫だから。どうしたの?」
「私が……私が殺したのっ。私が! お母さんも、村の人も、草も、木も、みんな……私が! ねえ、ピティお姉ちゃん! ねえ! 私をここから追い出して……お姉ちゃん知ってるんでしょう?」
 ピティは泣きじゃくるサラを見つめて思案した。
「私がやったこと、みんな知ってるんでしょう!? ねえ、私に何か罰を与えてよ!」
「やっぱり、あの夢はサラちゃんの……。サラちゃんが村を?」
 ピティの言葉にサラは泣きながら頷いた。
「私が、私の力のせいで……」
 サラはピティに全てを話した。
 自分がカオスだと言うこと。そして、カオスである自分がティアルガの人たちにどう思われていたか。
 そしてあのとき、ティアルガで何が起こったか。全ての真相を知り、ピティは驚愕した。だけど、驚いただけだった。怖くなんか、ない。
 十歳にも満たない子が抱えるにはあまりにも辛い過去と、あまりに大きすぎて辛い力。この子は、サラはなんて過酷な運命を背負って生まれてきたのだろう。
 ピティは再び、サラを強く抱きしめた。
「お姉ちゃん……」
「うん?」
 助けて、とサラは懇願した。
 ピティにできることは、歌うことだけであった。

 ――我らヴェルシアの民、誰もが誰もを愛してる。
 ――それはファルンでも、ヒュマンでも、カオスでも変わらない。
 ――さあみんな歌を歌おう、心の喜びを形にしよう。
 ――それが芸術であり、それが愛。
 ――我ら人と共に生き、人と共に散って行く。
 ――この世に愛を伝えることこそ、我らヴェルシア至上の喜び。

 この歌はヴェルシア族に古くから伝わる歌であり、ピティが生まれて初めて覚えた歌でもあった。誰もがこの歌の通りに生きた。人を愛し、芸術を愛し、ヴェリの街にはいつも笑い声が溢れていた。
 ノヴァラ氏族は守ることに命をかける一族だという。だからなのかもしれない。マイスの集落でも、ピティはサラのような酷い扱いを受けたことがなかった。ピティはヴェリでもマイスでも覚醒種だから、という理由で疎まれたことなどない。
 サラのような生き方をする者がいるなんて、知らなかった。そんな世界があるなんて考えてもみなかった。
 サラは泣きつかれたのか、いつの間にかピティの胸の中で眠っていた。サラの寝顔をみて、ピティはある決意をした。

 *

 サラは幻獣を呼び出して、たくさんの人を殺してしまった。
 そして、そんなサラを助け出そうとしたエターナという女性も、死んでしまった。サラはそのことさえ、自分のせいだと思い込んでいるようだった。
 どちらも、サラのせいなんかじゃ決してない。しかしサラは心を閉じてしまって、泣くことも、笑うことも、喋ることすらできなくなってしまった。
 でだけど、サラはようやく泣いてくれた。言葉を発してくれた。過去を話してくれた。やっと泣いてくれた。そして、ピティに助けを求めた。
 だからピティは、何としてもサラを助けないといけなかった。守ろう。夢の中で約束したように。
「ね、サラちゃん。今日ちょっとお出かけしない?」
 起きると同時に、ピティは言った。
 サラは寝ぼけ眼をこすりながら、こくりと頷いた。
 朝食を食べるときに、ピティは少し出かけていたがすぐに帰ってきた。
「ちょっと、シャインのところに行ってたの」
 そう言うと、ピティはすぐに朝食を食べ始めた。慌ててサラもそれに倣う。
 朝食を終えるとピティはサラの手をとった。
「さ、行こう!」
 着いた先はシャインがよく剣の練習をしている広場だった。
「お、来たな」
 シャインは背中に使い古したズックを背負っていた。
「じゃあ、案内してくれる?」
 おう、とシャインは意気込むと、先陣を切って歩き始めた。
「あんた、ちょっと早い! 少しはサラちゃんのことも考えなさいよ!」
「わりい、わりい」
 そんな二人をサラは不思議そうに見守った。
 やがて、イセリーナの森の奥へ奥へと三人は向かう。サラやピティがこんな森深くまで来たのは初めてだった。
 いつもはせいぜいが、隣の集落にまでしか行かないし、行ってはならないと言われている。
「内緒だからね、今日のこと」
 そう言うと、ピティは白い歯を見せて笑った。
「そうだぜ、俺だって怒られるんだ。いくら、このシャイン様が腕の立つ剣士だからって、こんな勝手なことは許されないことなんだぜ」
 村長ヤマナは温厚そうに見えて厳しい。ピティもシャインも、サラくらいの年の頃はよく怒られたものだった。
 軽口を叩きながら、一行は歩き続けた。
「ここらだな」
「話には聞いてたけど、酷いところね」
 シャインが足を止めた場所を見て、サラは息を飲んだ。
 そこには広がっていた森がなかった。木々がなかった。草がなかった。生き物がいなかった。
 まるで、これでは故郷のティアルガのようだ、とサラは思った。
「ここは?」
 サラは恐る恐るピティに尋ねた。
「かつて、この森を荒野にかえた伝説の邪竜がいたの」
 ピティは詳しくはわからないんだけど、と言うと、シャインがその後を続けた。
「邪竜エビル。古の悪魔。黒き災い。このイセリーナを恐怖のどん底に叩き落したドラゴンさ」
 サラは改めて、周囲を見渡した。
「じゃりゅう、エビル……」
「やつの吐くブレスはその一息で、集落ひとつを破壊し、多くの人を殺めたらしい。だけど、ひとりの英雄の手によって奴は倒された」
 やがて時は流れ、イセリーナの森も元あった姿を取り戻し始める。
「だけど、ここは当時、邪竜エビルが住処としてた場所でな。ちょっとばかり、木々の生長が遅いんだ。きっと、呪いがかかってる」
 シャインは荒野を見回しながら言った。
「本当なら、もっと早くこうするべきだったのかもしれないけど」とピティは言った。「大人の事情ってやつでこの土地は放置されてたのよね」
 イセリーナの森は深い。
 そのごく一部が荒野になっていたからと言って、何か支障があるわけではない。森の生物はそこを避けて生活するだろうし、切り開いた集落を愛し、その地を守るノヴァラ氏族に、集落から離れた森など、狩猟場の一部にしか過ぎなかった。
「まあ、ピティが大人になったら、って村長も言ってたけど、そろそろいいんじゃね? ただ、今回勝手にこんな行動したことばれるとおっかないから、村長が直々に頼むまで待ってなきゃなんないけどさ」
「ま、そのときが来るまでここに立ち入る者もいないだろうしばれないでしょ。そんなことより、シャイン。あれを」
 よしきた、とシャインは背負っていたズックを下ろした。
 中から出てきたのは小さなおもちゃのピアノだった。
「昔、ウォンとかいう変な行商のおっさんが置いていったもんなんだけど、まだ使えるかな?」
「たぶん、大丈夫」
 鍵盤を触って、ピティは微笑んだ。
 一体どうなっているのか、何をしようとしているのか、サラにはまるで分からなかった。
 ピティはゆっくりとピアノを弾きだした。荒れ果てた土が、少しずつ光を帯び始め辺りを包み始める。
 サラはそれを驚きの表情で見つめる。
「あれ、何だ? ピティはまだサラに言ってなかったのか?」
 目の前で起きている光景を不思議そうに見ているサラに向かってシャインは言う。
「あのな、ピティは覚醒種(カオス)なんだよ」
 サラは驚いた表情で、ピティを見つめた。彼女は目を閉じて一心不乱にピアノを弾き続けていた。
 たかがおもちゃなのに、ひどく綺麗な音色だった。
 驚いているサラに、シャインは言葉を続けた。
「あいつがピアノを弾くとな、こんな何もない所にも植物が生えだすんだ。それだけじゃねえ、歌を歌うと壊れた物がなおっちまうし、笛を吹くと怪我をした人間だって治っちまう」
 サラはピアノを弾くピティを見つめた。
 彼女の周りに光が溢れ出し、さきほどまで荒野だった場所に草木が芽生え、美しい野原に変わった。
 驚いているサラに、ピティは舌をぺろっと出した。
「へへ、びっくりした? 私もサラちゃんと同じカオスなんだよ」
 サラの瞳から、涙が溢れ出す。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――!」
「サラちゃん」
 ピティはサラに近寄ると、目が合うようにかがんだ。
「謝って、何になるの? 謝ったら何かが戻るの?」
 サラはピティの瞳をじっと見つめた。
「謝ってるだけじゃ、だめなんだよ。何かをしないと。サラちゃんは大切なものを壊しちゃった。それがサラちゃんの意思だろうと意思じゃなかろうと。これは変わらない」
「やっぱり、私なんか消えたほうが……そうしたら、誰も傷つかないで済む、誰も死なないで済む」
 ばか、とピティは言った。
「あなたが死んだら私が悲しむの、シャインが悲しむの。ティアラが悲しむの。それに音痴のお父さんだって、料理下手なお母さんだって、村長さんだって悲しむ。悲しむよ」
 でも、と口にしようとしたサラを、ピティは制する。
「あなたを愛してくれた人だって、きっとどこかで悲しんでるよ。私にはわかる、わかるもん」
「愛してくれた……人?」
「あなた、子守唄を聞いて泣いたでしょ。夢を見て泣いてたでしょ。きっと、お母さんはすごくサラちゃんを愛してた。愛の氏族ヴェルシアの名に誓って、この言葉に嘘偽りはないよ」
 子守唄。
 母が聞かせてくれた優しい唄。
「エターナだって、サラのこと愛してたんだぜ」
 シャインが言う。
「サラちゃんは、生きなきゃ駄目。死ぬ権利なんてない。生きて生きて、その力をコントロールして、今度はそれで罪滅ぼしをしなきゃ駄目。それがサラちゃんに与えられた罰だよ。……それからね、壊すことができるってのは、作ることにも繋がるんだよ。誰かを守ることにだって繋がる」
 ピティは微笑んだ。
「これから、マナを操る練習しよう。上手くなったら、一緒にここへ来よう。シャインは外に行っちゃうし、サラちゃんが私を守ってくれなきゃ」
「私が、ピティおねえちゃんを、守る?」
「そうよ。ここの森はまだエビルの呪いがかかっていて、すぐに枯れちゃう。何度もピアノを聞かせてあげる必要があるわ。そして、ここがきれいになったら今度はカウムースへ行きましょう。ティアルガのあった場所に、花を咲かせるの。そこで、ごめんなさいって言うの。こんなところで謝ったって、しかたないでしょう?」
 ピティの言葉にシャインも頷いた。
「その護衛、任せたぜ。俺がいなくなったら、サラがこの馬鹿を守ってやるんだ」
「だ、誰が馬鹿なのよ! あんたのほうが馬鹿でしょう! 簡単なマナだって操れないくせにっ!」
「俺はノヴァラだから、いいんだ」
 よくない、とピティが声を荒げる。
 二人の様子を見て、サラはくすくすと笑った。そして言った。
「私、生きていてもいいんだ」
 いいんだよ、とピティはサラを抱きしめる。強く強く。
「私、いま、幸せ……私なんかが幸せでいいの?」
 いいんだよ、とシャインがその頭にぽんと手を乗せる。
「じゃなきゃ、サラが生き残った意味がないじゃないか。俺はな、サラを初めて見たときに思ったんだよ。ああ、こいつはきっと今まですげぇ辛い思いをしてきたんだってな。そんなお前が幸せになれねえっつうんなら、俺が黙っちゃいねえぜ」
「私も黙っちゃいない。亡くなった人たちのためにも、サラちゃんは幸せにならなきゃダメよ」
 二人の言葉を聞いて、サラは自分の犯した罪と向き合おうと思った。
 決して許されることではないのかもしれないけど、それでも向き合っていこうと思った。
 たとえそれがどんなに辛い事であろうと、きっとピティがいれば大丈夫だ。また、この森へ来よう。そして、ピティと一緒に祈ろう。幸せになると誓おう。
 そしていつかは、ティアルガへ、母の眠る地へ行って、罪を償おう。
「ピティおねえちゃん、シャインおにいちゃん、ありがとう、ありがとう……!」
 美しい野原の中でサラはにっこりと笑った。
 この後、シャインが感動のあまりサラを抱き締めようとして、ピティに殴られた。
 そのことをマイスの集落では誰にも話せないことが、サラには少し歯がゆかった。


 『小さな覚醒者』――完。


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